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21. ジャーゴンってそんなに悪いものですか?
〜 技術用語認知度に関する調査への私感
- Jargon is not so bad for users, is it?


古田一義
2003年07月12日

 毎度、ご無沙汰です。ここんとこ、ユーザテスト分析用のビデオ分析補助ツールを作ってみよう、というプロジェクトに取り組んでみてたりします。こちらに専用ページを作ってますので、ご興味のある方は是非御覧下さい。まだまだ試作段階ですが、是非現場の方のご意見を賜りたいと思います。(最近、ようやくトップページにバナーがついた(^^;))コミュニケーション・ボードと同じく、Wikiと呼ばれる自由度の高い掲示板システム(?)を使ってます。どちらもお気軽にご参加下さい。


 さて、コラムの本題。AMD(CPUメーカー)のマーケティング部門(?)が、「コンシューマーが製品の技術用語などが理解できず購入を見送っている原因になっている」というレポートを発表したそうです。

「調査の結果、専門用語や製品の複雑さが全世界で新技術普及に悪影響を与えていることが明らかに」
http://www.amd.com/jp-ja/Corporate/VirtualPressRoom/0,,51_104_543~72454,00.html

 一部抜粋。

 この調査は、中国、日本、英国、米国で1,500人を超える消費者を対象に行われました。「MP3」、「Megahertz」、「Bluetooth」など、専門用語の意味を問う問題に全問正解したのは回答者のたった3%にすぎませんでした。また、「Megahertz」の定義を尋ねる三択問題に正解した人も、半数を若干超える程> 度(65%)に留まりました。用語を最もよく知っている層に属する人々(質問> した11の技術専門用語のうち、7つ以上に正解した人)でさえ、「DVR(デジタ> ル・ビデオ・レコーダ)」の定義の正解率は1/3強にすぎませんでした。

 実際の問題は、コチラから見られます(英語)。引用部分の最後の話(Question 5.)は、「DVRとは何か」の解答選択肢に「DVDが焼ける装置」ってのがあるのはちょっと引っかけクサイですね。σ(^^)でもちょっと悩みました(よかった。一応、全問正解だった(^^;))。

 また引用。

 ハイテク業界は、米国だけでも年間に100億ドル以上の広告費を費やし、製品がどんなに高速でどんなに素晴らしいかを訴えています。ところが、今回の調査対象となったPCユーザのうち半数強の人しか、PC広告のほぼすべてに登場する『Megahertz』という用語でさえ理解できない、などという現状が明らかになったのです。これでは、莫大な広告費が十分に活かされているとは言い難いでしょう。

 こういうシニカルな話は面白いですが、この分析はどうかな。別にMegahertzの説明の答えが、"A unit of measurement equal to 1 million electrical cycles per second, commonly used to compare the clock speeds of microprocessors" なのか、"A data transfer technology that uses fiber optic cable to carry information"なのか区別がつくことが消費者にとって重要なことじゃないでしょう。「なんだか知らんけど速さの尺度で、500MHzより900MHzのが速いらしい」ってのがわかりゃ、訴求力は持ってるってことだという気がします(PCの善し悪しを測るスペックとしてCPUパワーが適切かどうかは別問題ですし、CPUの900MHzのマシンより、FSB800MHzの方が(大抵)速いって解像度はユーザにも必要ですけどね)。

 逆に、"A unit of measurement equal to 1 million electrical cycles per second, commonly used to compare the clock speeds of microprocessors"を知ってたところで、数値スペックから実際使った時の体感速度イメージに結びつくかどうかは経験則でしかない。

 なんか話がズレてないですかね。「技術が生活にどのように役立つのかを世界中の消費者に理解してもらうために、技術業界はもっと容易な言葉を使わなければなりません」ってのは概ね同意なんですが、単に「Megaherzの定義を周知徹底させよう」って方向に進まないでね〜、って気がしました。

 例えばMegapixelって単位の定義は知らない初心者でも、「200万画素あればサービス版サイズの印刷には充分。300万画素あればハガキ。400万画素以上あればA4でもイケる」みたいな身近な指標と対応づけられることで、有意義な尺度になってますよね。

(↑この言い回し、誰が言い出したのか、真実なのか、は知りませんが店員がみんな口を揃えて言ってる言ってる気がします。実はσ(^^)もよく使うし。)

 じゃぁ、最初からカタログに「ハガキ用」とか「A4用」とだけか書けばいいかというと、実際の技術的スペックは250万画素なんてのもある連続量的なものなワケで、やっぱり250万画素は250万画素です、って書いてある方が、「あぁ、サービス版以上ハガキ未満。ちょうど真ん中くらいかぁ」とアナログ的な評価ができますよね。単位が身近な感覚で置き換えられるものであれば、数値指標も悪くはないかと。

 指標以外の話も同じ。このアンケートが問うているMP3の定義って、"An audio compression technology that is part of the MPEG-1 and MPEG-2 specifications"なんて表現なんですが、MP3がMPEG規格の一部であることなんてどうでもよくって、MP3がユーザにもたらすシアワセってのは「音楽データをCDよりずっと小さい容量に圧縮できるので、CD-ROMにたくさん保存できたり、小さいメモリー・デバイスで持ち歩けるようになる」ってことが訴求できてるかどうか、をこそなんで調べないんでしょう。

 なんかこういうアンケートを企画のされ方を見てると、技術ジャーゴンを同義でより一般的な言葉に置き換えてくんだ、って方向に猛進しそうで不安です。だけじゃなくって、ユーザ・エクスペリエンスにどう響くかって対応付けを具体的にしてく工夫も考えてってほしい(σ(^^)達も考えていかなきゃならない)、ってことかなぁ。

 別に「用語が難しいのが良くないよ」って話自体を否定するつもりはないんです。でもBluetoothとかMP3って規格名称自体は、互換性表記のために必要ですし、そういうのは一般語にすりゃいいってもんでもない気がします。一般語ってのは冗長になりがちだし、普段の会話に出てくる文脈でも使われて曖昧ですしね。人がジャーゴンでコミュニケーションをするってこと自体は、別に技術ドメインでなくても日常普通に行われていることであって、必ずしも悪いことではないんですよね。そのジャーゴンが通じるコミュニティに人々をどう引っ張り込むかを練った方が合理的なのかも知れません。そういう意味ではi-modeとかってのは勝ち組なんですかね。技術背景のことは知らなくても、それが生活にどう有用なのかはみんな知ってますもんね。BluetoothとかMP3を「技術用語」として捉えてる限り、その時点で負け組なのかも知れません。ユーザになにがしかの福音をもたらすソリューションの概念、なんて視点で見直してみてはどうでしょうね。

 極端な話、「僕のアドレスを君のPDAに赤外線でブルートゥースするね」とか「この写真データ、メールで添付するには大きいのでエムピースリーするよ」とかいう技術者が卒倒しそうな誤用が生まれるようなソリューション・ベースな認知をはかっていくくらいの意気込みでいったらどうでしょうね。

 ちなみにこの件に関しては、こちら(スラッシュドット ジャパン)でも色々と興味深い議論が行われていますよ。


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