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11. 消費者が使いやすさを評価するために(1)
〜 その意義と問題点
- Why people do not and can not discuss about usability?


古田一義
2001年10月31日

・どうして消費者自身が評価しなければならないの?

 道具眼プロジェクトの活動テーマのひとつに、「消費者が使いやすい商品を見分ける評価眼を持ってもらう」というのがあります。どのような道具が使いやすいかはユーザの既有知識や性格、使い方、障害の有無などによって異なります。一部のユーザビリティ専門家や雑誌のライターが「この商品は使いやすい!」と決めつけるのは難しいのです。この傾向は今後、各企業がユーザビリティへの取り組みをより重要視して、全体的な底上げが行われるにつれてますます強まって行くでしょう。今はまだ「誰の目にも使いにくいことが明らかな製品」というものを挙げることができるかも知れません。しかし、この先、最低限度のユーザビリティを確保した製品が当り前になってくると、後はターゲット・ユーザを絞り込んで、彼らに特化したユーザビリティを提供する方向へと向かっていくことが考えられます。

 とはいってもユーザビリティの軸でそう何段階ものターゲット分類がされるとは考えにくく、自分がどの層に属するかぐらい判断できるんじゃないの?という反論もあるかも知れません。しかしそもそも製品選択とは、他にも機能、性能、価格、デザイン、耐久性などあらゆる評価軸が存在する中で、最適なバランスをとらなければならない複雑な課題です。「初心者向けと詠われてるけど、どうしても欲しい機能がついてない」なんてことが起きて、結局、最後は個人単位でトレードオフを判断する必要がでてきます。こういう場合に、機能(DVDが観られる、CD-Rが焼ける)や性能(処理速度、画素数)、価格のように明確に比較判断ができる評価軸を、ユーザビリティでも持っていた方が、シアワセな買い物ができるんじゃないでしょうか。

・どうして消費者自身が評価するのが難しいの?

 現在、多くの消費者は製品選択時にユーザビリティをさほど重要視しない傾向があります。口では「使いやすいものが欲しい」と言いますが、実際に選択基準などを聞くと機能やデザインなどが理由に上がって来てしまいます。関心はあるのに、実際の選択基準にできない理由には、やはり評価の難しさがあると思います。我々ユーザビリティ屋の世界でも、製品の使いやすさを評価することは高等なスキルだととらえられています。特にまだ開発中の製品を、実際の使用現場ではなく設計室の中で、まだ動かない部分を設計図を見て動いているところを想像して評価することは、とても難しいとされています。消費者が店頭で短時間触るだけ、しかも時として電源すら入らないモック(模型)だけを見て評価しなければならない状況は、これと同種の困難を伴うのです。

 そしてもう一点、我々が専門家としての技量を問われるのは、「使いにくさ」を蘊蓄つけて整理できるか、という点です。単に「おたくの製品は使いにくいですね」とか「まぁまぁ及第点の60点ってとこですね」と言うだけでは仕事を果たしたことにはなりません。具体的にどの点が、どのような理由で使いにくくなってしまっているかを指摘し、時には改善提案も提供しなければなりません。消費者もこれと同一とは言わないまでも、似たようなことができることが理想的だと思います。ただ「なんだか使いにくい」で終らせるのではなく、どこが問題で、それはよく使う部分か?使ってるうちに慣れてしまえそうな程度か?自分で(例えば説明ラベルを貼ってしまうなど)手当できそうか?といった分析ができれば、先に書いたような機能、価格、デザインといった他の軸とのトレードオフ判断が、より精度をもって行うことができるようになるはずです。

・使いやすさを「語れる」ように

 先の節で、ユーザビリティ評価の難しさは、実際の使用場面の想定と、問題点の焦点化ではないかと書きました。今回はそのうちの後者について扱ってみようと思います。

 我々は、人々が使いやすさ/にくさの実態についてより具体的に捉えるために足りないのは、それを表現するためのボキャブラリーなのではないかと考えました。ボキャブラリーを持つことは、単にある事象を表現して他人に伝えることができるようになるという以上に、自分の中で考察する際の分析単位にも成り得ます。

 例えばオーディオ・マニアの人達が「音」を語る言葉に耳を傾けてみましょう。彼らは「スピード感がある」といった独特のボキャブラリーを使います。実はσ(^^)は未だにこれらが指すところを正確に理解できていませんで、新しいアンプやスピーカーの自慢で音を聴かされても、「なんか前よりいいねぇ」とか「うん、好き」くらいしか答えられません。相手に伝えられないだけでなく、実際自分の中でもそれ以上の解像度が持てないのです。しかし、一旦「音のスピード感」というボキャブラリーをマスターすると、新しい音に聴かされたときに、スピード感があるかに意識を向けることができるようになりますし、もちろん感想として表現することもできるようになります。

 ユーザビリティの世界でもこういったボキャブラリー群を提供できれば、消費者は単に「どうも使いにくい」、「なんか嫌い」というだけでなく、具体的にその中身を捉えることができるようになり、それが自分にとってどの程度重大なことが判断できるようになるのです。また表現ができるということは、知人と情報交換したり、店員に自分にあった製品を相談したり、メーカーに要望を伝えたりすることも可能になります。

・ユーザビリティを語るボキャブラリー

 では、現状ユーザビリティを語るボキャブラリーが全くないかというとそういう訳でもありません。例えば我々が業務レポートでよく使うものには、対応付け、一貫性、メタファー、アフォーダンス※といったものがあります。これらは認知科学などの知見に基づいたもので、我々がレポートで書く蘊蓄には非常に強力なツールとなります。

 ただ、これらをそのままひとつづつ消費者に浸透させていくには、ちょっと敷居が高いと思うのです。そこで、今回我々がユーザビリティ・パターンと呼ぶ、身近な例を使ったユーザビリティ上の問題点の表現方法を提案しようと思うにいたった訳です。 と前フリだけで、コラム1回分の分量になってしまったので、具体的な計画については次回に。

※これらの用語の説明は、使いやすさ研究所用語解説などを御覧下さい。いくつかは、書いてから随分時間がたっていてアラが目立つものもあるんですが、そもそも言葉というものは定義ではなく用例から学習するものである、という認知科学的学習理論に基づき、サイト内でその言葉を使っているページを検索するアンカーを付けてあります。是非ご活用下さい。


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