ユーザテストの音声録音品質を研究してみる(2)〜音声収録の基礎知識

Pocket

前回、ユーザテストではどんな収録ニーズ、要件があるのかをまとめました。それに対して、本稿ではどんな機材や設定、テクニックが有効そうか経験とリサーチでわかったことをまとめます。一部はデスクリサーチに基づき、今後注意したらよさそうと思っている、実地体験を伴わない知識もあるので、勘違いなどあれば是非ご指摘いただければと思います。個人だとそう高価な機材を扱う機会もないし、より多くの現場で適用可能な知見をまとめる意味では現実的なコスパで賄うことも考えなければならないので、マイクだけでン万円とか十数万円といった世界はちょっと除外して考えたいと思います。同様にビデオカメラなども業務用のものは範疇外としたいです(いや「業務」で使うんだけども)。

■マイクの種類

・原理の違い

大きくダイナミックマイクとコンデンサマイクがあります。ダイナミックマイクはカラオケとかで見るハンドマイクなんかで使われてて、安くて電源が要らないし、音源に近い分には十分音が拾える。

コンデンサは小さく感度が高く微細な音も拾えるが、高い、湿気の影響を受けやすい、電源が必要というデメリットも。

・使途別の形状の違い

(写真はイメージ用で、個々のリンク先商品が特別オススメということではありません。典型的な形状のものを選んでいます)

CUSTOMTRY カスタムトライ ダイナミックマイク CM-2000 (マイクケーブル付き)ハンドマイク

マイクのアイコンにも使われる棒の先端にボールがついたようなのがいわゆるハンドマイク。手に持ったりスタンドで固定して口の直近で録る前提。UTではあまり使われないです。

 

audio-technica ステレオマイクロホン(バウンダリー) AT9920バウンダリーマイク

底面がフラットで卓上に置いて使う形状のマイク。背も低くて存在感が低いのでUTではよく使います。単一指向性(後述)のものを二人の間の卓上に置けばちょうど良いでしょう。注意したいのは卓上の振動がダイレクトに響いてしまう為、キーボードやマウスの操作音、スマートフォンを置いたりもったりするゴトリ音などを大きく拾ってしまい場合があること。そんな時はハンカチを敷くなど緩衝材的なものを挟むと良いでしょう。

 

audio-technica ラベリア・マイクロホン AT829H/Pラベリアマイク

タイピンマイクとかピンマイクという親指〜小指大の小さなマイクで、文字通りタイピン型クリップなどでネクタイやシャツの合わせ目など胸元に装着して使う個人用マイクです。個々人の音がはっきり録りやすいですが、UTではいちいち了解をとって取り付けてもらうのも負担ですし、セーターなど不向きな服装もあるのであまり現実的ではないでしょう。紐(コード)がぶらさがるのもなにかとトラブルになったり行動を制限してしまいます。テレビ収録などでよくみるワイヤレストランスミッターをベルトやポケットに装着してもらうものもやはり大袈裟になって現実的ではないと思います。

FOTGA mic-01 ガンマイク スタジオ 指向性 マイク 録音/宅録/生放送/インタビュー 適用ガンマイク

少し離れたところから遠くの音を録るマイク。野外インタビューや野鳥観察などフィールドレコーディングで、周りの騒音を抑えてド真ん前の音だけ拾う超指向性をもっています。被験者の声を非装着で離れたところから拾えますが、感度によっては進行役の声が拾えなくなってしまいます。一人1本用意できればアリかも知れません。

AVANTEK コンデンサーマイク 高音質 単一指向性 3.5mmミニプラグ スタジオ 録音 生放送 ゲーム実況 PC用 MP-9ラージダイアフラムマイク

形状はハンドマイクに似ていますが、コンデンサマイクなので手持ちで乱雑に扱うものではなく、逆にショックマウントという振動を吸収する仕組みのついたスタンドで卓上やアームに固定して使います。ダイアフラムというのはコンデンサマイクの中核となる集音部品でこいつがデカイ=感度が高い、という意味の名前です。形状を表す名前が別途あるかも知れません。最近はYouTuberや歌い手など配信用ニーズが高まっているので種類も豊富です。ショックマウントが付属あるいは一体化したものもあります。

多少設置の配慮が必要ですが基本的にはバウンダリーマイクが手軽で「録ってる感」が希薄で良いと思います。ただし後述の指向性に注意してください。

・指向性の違い

指向性とはマイクがどんな範囲の音を録れるかを指す特徴です。無指向性>単一指向性>超指向性、といった順に音が拾える範囲が狭くなっていきます。双極指向性みたいな8の字的に前と後ろに感度をもつものもあります。

無指向性は全方位区別なく録れます。テーブルの両側に人がいる会議などを録ったりするのに良いですし、うっかり実際中にマイクの向きがズレてしまっても全く音が録れないというリスクは減りますが、逆に余計な背景ノイズ(空調音とか)も容赦なく広いますので良し悪しです。片側に並んで座るUTではもう少し範囲の狭い単一指向性の方が良いでしょう。ただし実際にはもう少し細かい区分(90°とか120°とか)がありますので、並んで座るか、テーブルの角をまたいで座るかによっても最適なマイクは変わってきますし、設置する向きも気をつけなければなりません。90°ならマイク正面に向かって左右に45°ずつの範囲の音しか録れないということになります。しっかり声を拾いたいからといってあまり前に近づけすぎると範囲から外れてしまう可能性もあるので気をつけたいところです。きちんとした商品には指向性を図解したものが仕様表に載っていますので確認しましょう。また少し高くなりますがシチュエーションで指向性を切換できるものもあるので候補に入れても良いかも知れません。

あと英語というかカタカナ語表記でオムニとあったら無指向性、カーディオイドは指向性を意味します。カーディオイドにはサブとかスーパーとか接頭辞がついて指向性の強さを示します。こちらが参考になります。

http://www.shureblog.jp/shure-notes/マイクの指向性:-何を、どこで、どう使う?/

・電源種別

コンデンサマイクには電源が必要です。本体に電池ボックスやバッテリーを内蔵していたり、外付けの電池ボックスが付属しているものもありますが、規格としてはプラグインパワーとファントム(ファンタム)電源があります。

プラグインパワーはビデオカメラやPCの3.5mmジャックのマイク端子から電源を供給できるものです。プラグインパワー対応端子かどうかは見た目で区別できず、カタログや仕様表でしかわからないので注意が必要です。プラグインパワー供給が必要なマイクを、プラグインパワー非対応マイク端子に挿しても音は録れません。電池式はその辺のややこしさはないですが、電池切れのリスクもあります。購入時に気をつけてプラグインパワーのマイクとカメラ(PC)を選ぶのが一番良いんじゃないんでしょうか。最近のマイク端子付きビデオカメラはほぼプラグインパワー対応な気がします。むしろ廉価機種だとマイク端子自体がないモデルがあるので、ビデオカメラ選びの段階でそこを気にしておくと良いでしょう。

audio-technica キャノンケーブル ATL458A/3.0

ファントム電源は写真のようなXLR端子(キャノン端子)を通じて電源を供給するものです。この端子/ケーブルを使うマイクの方がノイズに強いと言われますが、利用できるビデオカメラもマイクも業務用クラスのものになりますので、会議室などでゲリラ的に設営するUTでは、やや非現実的かも知れません。常設型のUTラボを設計する際はテストルームから観察室へとケーブルが長距離になるのでノイズ対策もより重要になり、XLR対応機器で組まれることが多いです。ファントム電源の電圧は何種類かあり48Vが基本ですが9Vや12Vといったものもあるので、マイクの仕様にあわせて供給機器側の設定もあわせてやる必要がある点に注意が必要です。

・マイク配置

ソニー SONY ステレオICレコーダー ICD-SX2000 : 16GB ハイレゾ対応 可動式マイク ブラック ICD-SX2000 B2本以上のマイクでステレオ録音をする時の指向性マイクの配置で、X-YとかA-BとかMSとかいう表記を見ることがあります。基本的には音楽など臨場感をどう出すかといったテクニックの話なのですが、最近のICレコーダー、リニアPCMレコーダー、外付けマイクなどでこれらの言葉が使われていることがあります。これは見た目にわかりづらいですが内部に複数のマイクがついていてステレオ録音できる場合に絡んできます。正直私もこれらをきちんと使い分けて録り比べたことがないのですが、UTの記録としてはそんなに気にすることでもないかなと思っています。そもそもインタビューなどの音声は基本的に下手に響いてしまうステレオよりモノラルで録るのが一般的だと思います。ただせっかく二人の人物を2chステレオで録れるなら、左右に定位が分かれていると、どちらがしゃべった内容か聞き分けやすくていいのかなとも思っていて、この辺りは色々試して見極めをしていきたいテーマです。

・録音機材

マイクからの音声信号を何で記録するかについてですが、まぁUTではビデオカメラで映像と一緒に記録するのが基本でしょう。映像と一緒に見てナンボのものですし。ただしより明瞭に録音した場合や、万一ビデオカメラがトラブったりした時の保険として音声レコーダーを使うことがあります。音声レコーダーにはいわゆるICレコーダーというカテゴリのものと、リニアPCMレコーダーとかフィールドレコーダーいうややお高いカテゴリのものがあります。厳密な区別は難しいですがICレコーダーは主に会議や講演など人の声を録音します。人の声の記録に高音や低音はさほど重要でない為、ファイルサイズの小ささを優先してMP3などの不可逆圧縮フォーマットを使うことが多いです。リニアPCMレコーダーはそれに対して音楽や野鳥、電車の音など芸術的、趣味的なものを対象によりリアルに収録することを目的としているのでリニアPCM、つまり無圧縮のWAVやFLAC形式、それもサンプリングレートの高いハイレゾ対応のものが多いです。マイクもそれなりに良いものや上記のX-YやMSといった臨場感高くまた自分でそれが調整できるようになってたりします。ちなみにビデオカメラも基本的には不可逆圧縮で音声を記録します。基本的にはICレコーダーカテゴリの十分でしょう。ただハイレゾが音質のリアルさ意外の面で役立つとしたら、小さい音でもノイズに埋もれず録れるという面です。万一声がすごく遠くて何いってるか聞きづらい時でも、ソフトウェアで音質を保ったまま音量を上げられます。デジタル録音では既定のレベルを振り切った大きな音はクリップといって切り取られてしまいます。これを防ぐためには一番大きな音でもクリップしない範囲に録音レベルを下げて録音しますが、これをやりすぎると今度は小さすぎて聞き取れないということになります。ハイレゾ録音ではこの音量方向の解像度が高いので、低めのレベルで録っても後で調整が聞くわけです。ちょうどデジカメで高画素数のカメラで撮った写真は、一部を拡大しても綺麗に見えるのと同じです。この音量方向の解像度を示すのが量子化ビット数という数値になります。例えば16bitだと音楽CDと同じ。ハイレゾだと24bitとかです。パット見そんなに違わないようですが1bitの違いは解像度が2倍になることを意味してるので、16->24bitでは2の8乗=256倍の解像度をもってることになります。つまり24bit収録してあれば256倍に拡大(音量増幅)しても16bit収録相当の音質を保っていられるわけです。後工程で大きくする手間を厭わなければ、もう録音レベルとか気にしなくて良いとすら言えそうです。社内で内製のUTで、万が一取り損ねたセッションや区間があっても「まぁいっか」で済むプロジェクトなら正直そこまで気にすることもないでしょうが、納品物として万一にもミスは許されない場合や、あとでしっかり書き起こししたい場合などにはハイレゾやリニアPCM録音、そして後述のノイズ対策にこだわってみてもいいかも知れません。

・ノイズ対策

UTやインタビューの記録では基本的に人の声以外はノイズです(製品が出す効果音や音声など一部例外はあるでしょうが)。できれば排除したいです。声がノイズに埋もれて聞き取りづらいと聞き返していてストレスになります。特に後でしっかり書き起こしもするようなケースではしっかりノイズ対策して聞き取りやすい収録を心がけたいものです。

UTは基本室内録りなのでありがちなノイズ源としては空調音や打鍵音/クリック音などの操作ノイズ、あとはケーブルを長く引き回した時にのりやすい電気的信号的なノイズ(ホワイトノイズとかヒスノイズといわれる「サー」という音)があります。良いマイク/録音状態で声だけが大きく録れていればこれらはあまり気にならないですが、声の録音レベルが小さくなればなるほど、これらのノイズと相対的に音量差が小さくなり聞き取りづらくなります。再生音量を上げてもノイズも一緒に大きくなるだけであまり聞きやすくはなりません。しかもクシャミや咳、爆笑といった突発的な音で耳を痛めるリスクすらあります。声は大きく、ノイズは小さく録る(S/N比を高める)工夫が重要です。

今はデジタル加工ソフトも進化していて後からノイズを消すことはある程度、というかかなり綺麗に消せますが、手間を考えると最初からS/N比が高く無加工ですぐ分析や書き起こしに使えるに越したことはありません。ただどうしても重要なセッションで手間暇掛けてでも聴ける状態に加工した場合はそういう手段もあると憶えておくと良いでしょう。個人的に最近使い始めてるのはAdobeのAudition CCというツールです。またCUIでフリーのSoXというソフトもコマンドラインからかなりの加工ができるので、10セッション分の音声データを一括加工、とかいった場合に憶えておいて損はないと思います。

さて、話を戻して録音時のノイズ排除について。まず空調音のノイズはICレコーダーなどだったらローカットフィルター(もしくはハイパスフィルター)をオンにしておくと良いです。

打鍵音などの操作音はテーブルの振動を通して伝わる部分もあるので、バウンダリーマイクなら下にハンカチや防振マットのようなものを敷くと良いでしょう。三脚ネジ穴のついたマイクやICレコーダー用には、最近こういうショックマウントを見つけました。

これは上側が三脚ネジ(1/4インチねじ)になっているので、ねじ穴がついているICレコーダーなら取り付けられます。ただし下側がビデオカメラのシューマウントになっているので、これを外し、別途下記のネジ後継変換アダプタが必要になります。

効果の程は次の実査で試してみたいと思います。

以上、マイクにまつわる専門用語や規格について、UT文脈で向き不向きをまとめてみました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)