UTに向きそうなビデオカメラ2020

私は産業技術大学院大学(AIIT)の社会人向けコース「人間中心デザイン」で毎年ユーザビリティ演習の講師をしていて、7チームくらいが同時進行で模擬ユーザテストを行います。その際、記録機材など大学で用意しきれないものを私物から貸し出ししていて、ビデオカメラもそのひとつです。最近はスマホやPC画面を直接録画するケースも増えていますが、バックアップの意味も含めてビデオカメラでの撮影もまだまだ欠かせません。昨年も割とビデオカメラで録りたいというチームが多くて少しタマ不足でした。AVCHD録画モデルなら余裕あったんですが、さすがに今時それでは取り回しが悪い。セミナーなので撮ったその日にデータを持ち帰りたいし、シンプルに1セッション1ファイルでPCで簡単に再生できるMP4形式で録れるものを貸してあげたい(AVCHDは2GB毎にファイルが分割される)。

ということでもう一台くらい安いのでいいから増やそうと機種選定。結局「どうせ買うなら」病でそこそこいいやつを買ってしましました。

■2020年にUT向けビデオカメラを買うならどんなのがいい?

まずはユーザテスト記録に向いた仕様を改めて2020年の機能トレンドを元に整理してみます。

・スマホじゃダメなん?

スマホでもフルHDはもとより4Kで録れる時代ですもんね。ただUTでいうと操作している手元や画面をズームアップして撮りたいことも多いと思うので光学ズームで解像度を落とさずにクローズアップできるビデオカメラはやはりメリットがあると思います。

あとはマイク。どうしても話者の背後から録ることが多いUTでは声をクリアに録るのが難しく理想的には外付けマイクを使うことが望ましいです。スマホで使える外部マイクも登場増えて来てはいますが選択肢という観点ではビデオカメラ圧勝です(ただしビデオカメラも外部マイク入力を装備している必要があります)。

そしてストレージ容量と安定性。1時間以上安定して録れるという意味でも専用機は安心です。スマホは着信があったり通知が出たりしても録画が止まらないかとか不安があります。基本的にはスマホやデジカメは短時間のスナップショット的な動画を撮るものだと思います。UTのように60〜90分回し続ける前提の設計では熱暴走やそれを防ぐための安全装置による録画停止のリスクが否めません。またSDカードスロットがないiPhoneやPixelなどの機種では容量面の不安もあります。「あ、足りない!」ってなった時にすぐに予備SDカードを刺し替えられるものが良いでしょう。

・フルHDか4Kか?記録容量とも兼ね合い

予算に余裕があるなら大は小を兼ねる的な意味で4Kモデルを買ってもいいとは思いますがマストではないと思います。解像度に余裕があると、遠くから撮っても後で拡大して画面内容などを見られる可能性があるので保険としてはアリ。ただその分データも大きくなるので録画ファイルを後でPCにコピーして見ようとか部内でシェアしよう、とかいった時に不便を感じるかも知れません。

手元(評価対象物)を撮るのか、全景を撮るのかにもよりますが、実質的には720p(1280×720)くらいで事足りるし、ファイルサイズも小さいのでむしろこうした低めの解像度(それでもDVDよりは上)設定をもっていることも重要だと思います。

例えばPanasonicのVX992Mという機種の仕様で比較してみます。この機種は内蔵メモリが64GBあります。4KのMP4で録画した場合、ビットレートは72Mbpsにもなり録画可能時間は約1時間50分。UTでいえば1セッションしか録れないことになります。セッションの合間に64GBものデータを吸い出して内蔵メモリを空けるのも現実的ではありません。これがフルHDになっても28〜50Mbpsで3〜5時間。1日分も録れないでしょう。しかし720pまで落とすと9Mbpsまで減り、約16時間50分となります。一気に2,3日分となります。数名〜10名程度の実査なら丸々録画できます。コピーも早いし低スペックのPCでも楽々再生できるので現実的には良いバランスの画質設定だと思います。この画質設定で単独で録れるものを選ぶと良いでしょう。「単独で」というのは、SONY製カメラの場合、4KやフルHDをメインで撮りつつ、サブで720pを撮るような仕様になっている為です。メインを残すようにしつつ、その場でサっとSNSにシェアしたり編集用仮ファイルとしてサブという意味合いです。これだと高画質と低画質の2本を同時に残るのでむしろストレージを圧迫します。セッション毎に高画質の方を消せばいいんですが、これを忘れたりうっかり低画質の方を消してしまったりとトラブルの種にもなりかねません。SONYさんには是非720p単独モードを実装してほしいです。

なお内蔵64GBでの試算を引用しましたが、最近では128GBや256GBのSDカードも比較的手頃な値段で入手できるようになってきていますので、少し追加投資しておけば2〜4倍は録れるということになるので、解像度を優先するならばそれもアリでしょう(ただし256GBはまだ出てから日が浅くメーカー公式にはサポートリストに載ってなかったりもするので事前確認は必要です)。

・マイク入力

UTは操作の様子を映した映像はもちろん対話内容を重要で、それがしっかり聞き取れる音声収録も軽視できません。上述の通り、背後から撮影した時にもしっかり参加者の声を拾うため、卓上にバウンダリーマイクを置くなどしてそれをビデオカメラのマイク入力端子に接続するのが理想的です。2,3万円くらいのエントリーモデルではマイク入力端子自体がついていないことがほとんどなので注意が必要です。だいたい5万円くらいのミドルグレード以上ならついています。

・ネットワーク機能

最近のモデルはWi-Fiを内蔵していて、スマホアプリから遠隔操作できたりスルー画(レンズが捉えているリアルタイムの映像)を視聴できたり、多人数で視聴できる配信サーバーに接続できたりします。

UTでは別室で観察役が観察や記録を行ったりするのにリアルタイムの映像や音声を中継することが多いですが、こうした機能があれば長いケーブルを取り回すことなく別室に中継ができるので便利です。またスマホアプリ側から録画/停止操作もできるので役割分担に幅をもたせられ、万一モデレーターが録画をスタートし忘れてても観察室側から開始できたりもします。ただしSONYなどは音が飛ばせなかったりするので事前の仕様を確認する必要があります(カタログにはそこまで書いてないことが多い)。

配信については少し前までUStreamが元気だったため、多くのメーカーはそちらに対応していることが多いですが、いまはIBM傘下になり2018年に無料プランが廃止されたので、有料契約(月$99で5クライアント〜)が必須になっており、ちょっと使いづらいです。ただ無料サービスと違ってしっかりパスワード制限もかけられるので、秘匿性の高いUTなどではむしろアリなのかも知れません。

・あんまり重視しなくて良い要素

UTで使う分にはあまり気にしなくて良い要素としては、

  • バッテリーのスタミナ(基本ACアダプタ給電)
  • ビューファインダーの有無
  • 光学ズーム倍率
  • センサーサイズ

などがあるかなと思います。

■で、今回買ったのはコレ!

さて前置きが長くなりましたが、現時点で私的チョイスはこちら。

ビデオカメラの写真

PanasonicのVX992Mです。ずっとSONYを買ってきたので充電器やバッテリーの使い回しを考えると揃える方が楽だったんですが、上述の

  • スマホアプリで音が聞けない
  • 720p単独録画モードがない

が不満だったのと、たまには違うメーカーのカメラも触っておいた方がUI知識の幅が広がるかなというところで決めました。

特徴としては、

  • スマホビューワーで音も出る(SONYは映像のみ)
  • 720p単独録画モードがある

というSONY機にはない要求仕様を満たしているのに加え、

  • スマホカメラの映像を子画面としてWi-FiでとばしPinP録画ができる(3台のスマホをつなぎ、うち2画面を子画面として合成できる)
  • 4Kなのに軽い(SONYのAX45/65が500g超だけどこれは300g台。バッテリー別で)

などがありました。UTでは手元映像と全体俯瞰映像を合成機でPinP録画することも多いので、それをよりシンプルな機材(カメラとスマホのみ)で録れるのは面白いなと。

SONYの同グレード機と横並びな部分としては、

  • もちろんマイク入力あり
  • USB 5V充電もOK(ただし充電専用プラグより遅い?)
  • USBでPCにマウントしてデータ吸い出しもOK
  • Ustream改めICM Cloud Videoストリーミング配信(有料)

など。SONYに対し劣っている部分としては、SONYの中級機以上にはマルチインターフェイスシューという専用外部マイクなどを装着できるインターフェイスが備わっており、Bluetoothワイヤレスマイクなどユニークな周辺機器があります。これに相当するものがありません。ただし買ってから知ったんですが、背後に差し込むシューマウントが付属しており、一般的なガイマイクなどであればここに固定することもできます。

ビデオカメラ背面側の写真

シューアダプター装着状態の写真

■実機レビュー

4K AIRを名乗るだけあって4K機としてはコンパクトで手のひらの収まりも良いです。SONYのAXシリーズは運動会、学芸会などのハレの日に気合い入れてもってくという感じですが、本機であればもう少し気軽に普段使いできそう。ミラーレスとコンデジくらいの感覚です(コンデジ並に小さいという意味ではなく、気持ち的なニュアンスです)。

充電プラグは丸型でその先はUSB 5V/1.8Aの充電器です。完全に専用品のSONYよりは汎用性が高くていいですね。ただしどちらも充電ポートとは別にある通信用MicroUSB端子から5V充電することもできます(おそらく充電速度は遅め)。

ところでSONYのCX670はハンドストラップ部分にUSB Aコネクタのついたショートケーブルを内蔵していて、単体でPCに接続して録画ファイルを吸い出せるのがとても重宝していましたが、最近ではPCがUSB-Cになってきていて結局変換アダプタやハブが必要になりがち。その意味では内蔵ケーブルを止めてUSBジャックのみにするのは正解なのかも知れません(自分のPCに合うケーブルを持ち歩く)。ただせっかくUSB-Cコネクタも小さいのでCケーブル直出しな機種も残ってくれると嬉しいなと思います。AndroidやiPadに直結できたりすると便利かなと。

で992Mに戻ります。スマホカメラ映像とのPinP(ワイプ撮り)ですが、スマホを横にして撮った場合、子画面は16:9になります。しかしスマホを縦持ちにすると9:16にはならず正方形映像に。UTでスマホ画面などを子画面とする場合、縦長の9:16になるといいなと思ったんですが、まぁより重要な操作画面を子画面にすることもないからいいかな?どうせならもう少しレイアウトに選択肢があると良かったかも知れません。また4Kでは本機能は使用不可です。せっかくの解像度の使い道としてPinPは有用なのですが、さすがにまだ処理性能的に厳しいのでしょう。4Kでもリアルタイム合成できるようになった頃、「ワイプ撮り誰も使ってないから廃止でよくね?」とならないよう、微力ながら推し続けていきたいと思います。

以下、ワイプ撮りを使った様子を動画にしてみました。

また合成前の(カメラ側の)元映像も別保存できますが、その場合形式がAVCHDになってしまうようなので多分使わないかなと思います。

UI的にはSONYが長かったので違和感がなくはないですがおおむね良くまとまっていると思います。iA(インテリジェントオート)に露出と色合いのみマニュアル調整できるiA+なんかもツボをついていると思います。できれば色合いではなく色温度で調整したかったですが。ピントがあってる箇所を強調表示したり、拡大して確認できるモードなど、必要なものを一通り揃っています。露出オーバーの部分をゼブラ表示するのだけはナサゲ。

また本機にはベビーモニター(赤ちゃんが泣いたら通知する機能あり)や外出先からの見守りカメラといったモードもあります。なるほど「ビデオカメラって運動会、学芸会、旅行など年数回のハレの日にしか使わないから買うのもったいないね」って人向けなんでしょう。普段はこんな使い道ありますよと。ただ見守りモードを試してみたところアプリ側でエラーになりつながりませんでした。もしかしてUPnPとかポート開放とかが必要なのかな?そこらへんUI的にはなにも表示されず、カメラ側ではWi-Fiにはつながっているぽいというフィードバックのみ。ちょっと原因究明ができないまま保留となっています。

 

年始のお年玉気分で衝動買いしたので、まだ実践投入はしてないですが、とりあえず映像(と音声)を観察室にとばす要件の案件が発生したら早速使ってみたいと思います。是非ご用命くださいませ。

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