ユーザテスト/インタビュー調査における感染対策を考える

2020年2月現在、新型コロナウィルスCOVID-19が話題になり、各種イベント会合が中止や延期になっています。多数の人が入れ替わり来てはモデレーターと近くで話したり評価対象デバイスに触れたりするユーザテストも感染リスクと無縁とは言えません。可能であれば延期なども視野に入れられれば良いのですが、期末のこの時期、クライアントとの契約や様々な都合もあって実施に踏み切るしかないこともあるでしょう。そんな中でもできる対策や注意点をまとめてみました。

■デバイスの消毒

一般に脂質であるエンベロープ(外膜)をもったウィルスはアルコールに弱いとされます。インフルエンザウィルスやコロナウィルスも含まれます。COVID-19もコロナウィルスの一種なので同様に考えてよいだろうとされています。ユーザテストで使う評価対象物や機材もアルコールで定期的に消毒することは有効でしょう。ただし若干注意が必要だと思います。

1つはアルコールの濃度。アルコールは水分とのバランスで効果が異なるので目的別に様々な濃度のものが売られています。医療用、消毒用とされるものは70%くらいのものが多い様です。ウィルスのエンベロープを破壊するという点においては100%が最も良いものの、一般的な殺菌消毒作用としては少し水分がある(60~90%)位の方が良いらしく。いわゆる消毒用エタノールですね。酒税回避のために添加物が加えられてるものもあるようですが基本的には効果はかわりないぽいです。

逆にアルコール濃度が50%以下のようなものだと消毒効果もほとんど期待できなくなります。強すぎると手荒れの原因にもなるので、手指用のウェットティッシュはかなりアルコール濃度は低いものが多い様です。「除菌」とか書いてあるヤツです。つまり菌を殺すことはできないが、清拭によってそこから菌を取り除くことはできよう、というものです。「殺菌」効果は医薬品でないと謳えないので日用品グレードのものは「除菌」という表記になっているようです。

じゃぁ濃度が60%以上だったり「殺菌」って書いてあるヤツを選べばいいかというとデメリットもあります。手指とデバイスへのダメージです。高濃度のアルコールは液晶画面などのコーティングや塗装を劣化させます。その場ですぐに目に見えてボロボロ剥がれてくるみたいなものではないので気付きにくいですが、長期的にはダメージが蓄積されていきます。自社資産に限らずクライアントやレンタル会社から借りている場合もある評価機や高価な収録機材を傷めるわけにはいきません。また1セッションかぎりのモニタさんはともかく、モデレーターが毎セッション高濃度のアルコールで手を消毒していたら手荒れなども起きます。

2020.3.10追記: Appleがウチの製品はアルコールウェットシートで拭いてもOKという記載を説明ページに追加したそうです(スプレーや浸したりはNG)。

そんな諸々を加味すると、以下のような使い分けが理想なのかなという気がしています。

  • 来客向けにはその場で手軽に消毒できる消毒用アルコールスプレー
  • モデレーターなどスタッフは薬用ソープで頻繁に手洗い
  • 消毒液中の水分がデバイスに悪影響を与える可能性があるのでスプレーは避け、シートタイプのもので端子部分などを避けて清拭
  • スマホの画面やアルコールに弱そうな塗装部分は「液晶用」などと書かれた精製水(ノンアルコール)のウェットシートで毎セッション拭き取り
  • その他のマウス、ペン、朱肉ケース、テーブル、ドアノブなどモニタさんが触れる可能性のある箇所はアルコール消毒シートまたは除菌シートで定期的に拭き取り

精製水ではウィルスを殺せないのではないか?と思われるかも知れないですが、油脂である指紋を拭き取っておくだけでもウィルスの付着率を下げられるので効果はあるようです。あるいは(傷んでも消耗品と割り切れる)液晶保護フィルムやカバーをつけるなりした上で思い切りアルコールで消毒するという手もありますね。

私が液晶用に使っているのはコレ。ノンアルタイプです。インフルの時期以外でも、前の人の指紋がべったりついているスマホとかモニタさんも触りたくないと思うので通年できっちり活用したいものです。

アルコールシートの殺菌タイプ(70%前後クラス)か除菌タイプ(50%以下クラス)かは一長一短だし、そもそも今は入手困難なので好きに選べないこともあるかと思います。ただエンベロープ破壊によるウィルスの無効化には15秒くらいかかるとされているので、殺菌タイプを使うなら少し時間を置いてから拭き取るのがいいみたいです。除菌タイプは文字通りその場から拭い去るイメージで指紋などをしっかり拭き取り、拭ったウィルスはしばらくは生きてる可能性があるのでシートの再利用厳禁(同じ面で何か所も拭かない)、という運用がよいのではないかと思います。

■マスクによる聞き取りづらさを補う

マスクによる予防効果は現実的にはさほど見込めないと言われていますが、心理的安全のためマスクをしていらっしゃる方は多くいます。それを「聞き取りにくいから外してください」とは言えません。すぐ隣にいるモデレーターはまだいいのですが、マイクを通して聞く観察室サイドの人はかなり影響を受けます。特に元々がボソボソ話す方だと相乗効果で何をいっているのか聞き取りづらくなります。聞こえたとしてもかなり集中力を要するので終日セッションを続けていると疲労が溜まってしまいます。

これはもう以前からことある毎に言ってますがマイクに投資をするしかないと思います。PCやスマホ、ビデオカメラの内蔵マイクで済ませるのではなく、きちんと外付けのマイクをモニタさんの声をしっかり拾える直近に配置することです。卓上に置くバウンダリーマイクや、ラベリアマイク(タイピンマイク)を活用しましょう。ラベリアマイクはケーブルの取り回しが煩わしいですが、先日このブログでも紹介したようなワイヤレスタイプのものも比較的安価に手に入るようになってきています。

■モデレーターの喉をケアする

この時期、ただでさえ喉を酷使するモデレーターはインフルや風邪でなくても喉を痛めがち、咳こみがちです。モニタさんにいらぬ不安を抱かせないよう、しっかり喉を潤したり、セッションの合間にのど飴を舐めるなどしてケアしましょう。

浅田飴の公式サイトによると、のど飴には3つのクラスがあります。医薬品、医薬部外品、食品です。医薬品は具体的な症状の緩和を目的としたもの、医薬部外品は効果は低いが販路が広いので入手性が良い、食品はなんかスーッとするだけ(笑)。

最近のお気に入りはこれ。私はのど飴のど飴したスーっとしたのが苦手ですが、このシリーズはフルーツ香料が効いていて舐めやすいです。医薬部外品なのでコンビニで買えます。用意を忘れた時でも調達が楽なのが良いです。

マスクは悩ましいですね。感染症状がある場合は論外(帰れ!)として、単に咳が出るという場合はするべきでしょう。「熱とかはないんですが季節柄(またはしゃべりすぎで)咳き込みがちなのでマスクをさせていただきます」などとひと言あると良いかも知れません。咳き込みがない時は個人的にはしないでおきたいなと思います。このご時世で「失礼だ」と怒り出す人はそうそういないとは思いますが、やはり普通に話しづらい、聞き取りづらいというのは会話主体の場ではデメリットかなと。

呼ばれて行くモデレーターの立場としては、テストルームは加湿器、空気清浄機をしっかり稼働させて空気の質を保ってほしいと思いますが、テストルームや会議室はたいていのUTやインタビューには広すぎて生半可な性能の製品では追いつかないというのが現実ですね。乾燥した空気は感染も加速させるので可能ならば気にしてみてほしいと思います。

■高齢者を除外する?

COVID-19は若くて体力がある健常な人には風邪程度の症状だと言われています(そもそもコロナってもともと風邪(普通感冒)の原因ウィルスで2番目に多いとされるウィルスなんだそうでCOVID-19はその亜種なわけですね)。一方でもともと基礎疾患がある人や高齢者など体力、抵抗力が弱い人の重症化リスクが高い肺炎を併発しやすい傾向があると言われています。

UTでは幅広い層の人のデータを揃えるために年齢配分を意識することが少なくありませんが、不要不急の案件であればシニア層を省く、という検討をしてみても良いのかも知れません。

■ドタキャン率が上がる可能性を折り込む

日々状況は変化し、どちらかというと警戒度が増していく現在、アポイント時点では参加の意思を示していたモニタさんが、前日や当日になって「やっぱり不安だから止めます」と言い出す可能性は上がっていると思います。会社などから急に指示が出ることもあるでしょうし無理強いはできません。最悪、実際になんらか罹患して来られなくなるということも。

ドタキャンリスク自体は平時からそれなりにあるものですが、特に今の時期はその見込みを高く見積もっておく必要があると思います。どうしても一定数のデータが必要な案件であれば予備候補をしっかり探しておく必要がありますし、受託であればクライアントとももしもの場合の妥協点を議論しておくことも重要でしょう。

 

以上、できるだけググって裏付けをとった中で、現実的な落とし所を経験を元に書いてみたつもりです。誤解や不足、別案があればお気軽にご指摘ください。是非みなさんのノウハウを共有して乗り切りましょう。

次記事ではユーザテストの観察ルーム側でできそうな対策について論じてみました。よろしければご覧くださいませ。

 

2020.3.23追記:

物品に付着したウィルスの寿命に関して、ここ数日「プラスチックやステンレスで72時間生存!」みたいな記事が話題になっていますが、それに対する冷静なツッコミ記事を見かけましたので要点を訳してみます。

「When the scientists placed virus-laden droplets on plastic, they found that half of the virus was gone after about seven hours. Half of what remained was gone after another seven hours, and so on. By the end of Day Two, there was less than 1/100 of the original amount, and after three days the remnants were barely detectable.」(意訳:プラスチックに付着させて、7時間で半分。次の7時間でまた半分。2日目の終わりには1/100以下。3日目にはほぼ検出不能。)
ということなので、これを「72時間生存する!」と言い切っちゃうのはかなりミスリーディングな気がします。ウィルスは一定数が体内に入らないと感染は起こせないらしいので、残留ウィルスが半分になったとすると、感染する実効力はそれ以下に落ちるという指摘も(Twitterで)見ました。
「For stainless steel, the half-life for the virus was five or six hours, and for cardboard it was even shorter: less than four hours.」(ステンレスなら”半減期”は5,6時間。段ボールは4時間以下。)
プラスチックよりステンレスの方が半減期が短いというのは意外ですね。ステンレスの方が指紋がつきやすく、そこに付着する率は高そうです。まぁ実験は指紋とか考慮しなかったかも知れませんし、付着しやすさと生存率は関係ないのかもです。
「Still, it can’t hurt to wash your hands after taking groceries out of the bag, opening a newly delivered envelope, or retrieving the newspaper. Soap and water does the job.(意訳:それでもまぁ買い物袋から品物を出したり、届いた封筒を開封したり、新聞を回収した時には手洗いをした方がいい。石鹸と水でOK。)」
半減期(半分に減るまでのスピード)がそうである、ということで、結局のところ感染リスクは最初にどんだけウィルスがいるかということと不可分、とう至極もっともな指摘で記事は締めくくられています。
そう、普段の予防策としては手指については別に石鹸の手洗いでいいんですよね。ただアルコール消毒ジェルは水がなくても使えるのでユーザーテストの会場とか施設入り口に置くには便利。またスプレーやウェットシートなども機器や机椅子、ドアノブの除菌に便利なので、会場調査にはどちらも手に入るなら用意しておきたいところ。70%濃度に満たない、より濃度の低い除菌レベルの製品でも無意味ではないということでしょうか。

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