自室に低温コンベクションオーブンを導入してみました。オーブンの中でもファン付きで熱風でこんがり焼けるのがコンベクションオーブンで、更に温度設定が100℃以下に設定ができて低温調理やフードドライヤーとしても使えちゃうのが”低温コンベクションオーブン”です。
TescomのTSF61Aというモデル。1台6役の多機能モデル。外箱に大きく謳われているキャッチコピーは「低温でうまれる、温かい食卓」です。
がだスマン、お前の設定場所は写真の通り、3Dプリンターの横なのだ。キッチンではないし調理に使われることもない…
■3Dプリンターと低温オーブン
3Dプリンターとオーブンがどう関係するのか?実はPLAなどの素材は3Dプリンターで造形しただけでは完全体ではなく、さらに追い加熱することで分子構造が変化してより強固に結合して強度が増したり変形が抑えられたりするらしいです。これを”焼きなまし”とかアニール処理とか呼びます。
例えばBambu Labの純正フィラメントの仕様表の一番下の行みてみると、PLAでは「50~60℃で6~12時間」となっています。PETGは不要ですが、PETG-CFなら「65~70℃で6~12時間」という具合。高めのレンジだとABSやASAが「80~90℃で6~12時間」、よりマニアックなフィラメントで130℃まで指定があります。こうした数十度~百数十度前後の温度帯を保って加熱ができる安価なデバイスとして低温コンベクションオーブンが使われるようです。もちろんメーカー想定外の使途で自己責任ですし、食品調理とも兼用しない方が良いと言われています。この記事を参考にされる方も自己責任でお願いします。
他にも
- フィラメントの事前乾燥
- 乾燥剤(シリカゲル)の再利用のための乾燥
などにも使えたりします。フィラメントドライヤーとしてはSanluのこれを購入済みですが、シリカゲル乾燥がキッチンまで行かなくてできるのはヨサゲ。
そういう用途として、この機種はこちらの動画で紹介されていたものです。
100℃未満の低温帯に対応(35℃スタート)で、フィラメントのスプールが入る奥行きってのがポイント。ビックカメラ店頭では「25cmピザOK」のマークがついており、普通のトースターより奥行きがあって網や鉄板が正方形に近い形をしています。
一応競合価格帯の他メーカー品も比べて私なりの選定理由も挙げておきます。店頭で競合として置いてあったのが例えばこれ。
温度設定が細かい
HMO-F300は低温帯と高温帯のダイヤルが共通で、40℃~250℃の9段階で20℃刻みです。一方、TSF61Aは低温と高温のツマミが別れており、低温帯だと35℃スタートの5℃刻みで加減ができます。どれくらいの温度を常用するか未知数ですが低温用として買うならばこのレンジで細かく調整できるに越したことはありません。
またモードが分離しているので、うっかり高すぎる温度を設定してしまうリスクも避けられます(上記動画では100℃で加熱してPLAだと変形しまくってました)。
長時間設定がある
HMO-F300は最長5時間までタイマー設定が可能。しかし上記フィラメント加熱表で6~12時間となっているので足りません。TSF61Aだときっちり12時間まで設定できてしまいます。調理用として見てもフードドライヤーとして乾燥フルーツやビーフジャーキーをがっつり乾かそうという時に心強いスペックです。
デザインがシンプル
またHMO-F300みたいに前面に「トースト」「ピザ」「焼きいも」みたいな調理メニューボタンがないのも今回の用途では無駄がないし、「食品調理用を転用してます」って罪悪感も薄れるので良いですw。
緻密な温度制御(オーバーシュート防止)
公式ページのグラフをお借りします。
ファンも使うせいか温度管理が緻密で、より設定温度に対して忠実な振れ幅で加熱ができるようです。コンベクションオーブンとして普通なアピールポイントなのかも知れませんが、テスコムはドライヤーの技術を応用しているとアピールしています。一方日立のHMO-F300のページでは特にこれに触れている箇所はありませんでした。
ただ、上記のかける氏の動画での実測では最初に一瞬設定温度を超過してしまったぽいですが、さてどうなんでしょう。
そんなこんなで、調理用としても期待できる製品ですが、仕様的に3Dフィラメント品のアニール処理用としても充分かつ使いやすそうということで自分もチョイスしてみました。他にもジップロック公認で低温調理に使えるというのもユニークです。通常の低温調理器やホットクックを使う場合、タンクに水を張ってジップロックに入れた肉や魚を沈めて加熱します。結構これが面倒だしジップロックに水が浸入したりしがち。熱媒体として水を使わずに直接ジップロックを更において加熱できるって地味にスゴい。なんか見てると普通にキッチン用にも1台欲しくなってきます。
■一応調理もしてみる
とりあえず初期不良時に「3Dプリント品を熱したら上手くできませんでした」だと通用しないでしょうから、動作チェックも兼ねて上記のジップロックを使ったステーキ調理を試してみました。ステーキは家庭のフライパンで焼く際に、中まで火を通し過ぎず柔らかく焼く火加減は難しいですが、「低温調理器でレアに火を通して、最後にフライパンでさっと両面に焼き目を入れる」という手法はお手軽でとても有効なのは(低温調理器やホットクックで)実証済みです。これを比較のためにやってみます。
なお公認なのはジップロックのみで、他社製品だと保証はないのできちんと買って来ました。
公式レシピはローストビーフしかなかったので、より薄くて火が通りやすいステーキ肉ということも加味して、過去の経験から65℃で2時間。ジップロック使用時はファンOFFで良いようです。
いい感じにピンクのレアみが出ました(外側の仕上げはフライパンで焼いてます)。1枚1,000円するかしないかの豪州産お手頃肉ですが柔らかく仕上がりました。できあがりとしては水に沈める低温調理器やホットクックと同等かなという印象。
なおソースはこれがお気に入り(リンクは12個入りなので注意)。
もう一枚一緒に焼いた国産のお肉だとこんな感じ。
設置は下の写真の通り、直上にフィラメントラックがあって熱の影響が心配でしたが、加熱中の天板は触れなくはないくらいでとりあえず大丈夫かな?なんなら乾燥になっていいかも?
200℃とかまで上げればわからないですが、先に書いたフィラメント加熱の温度帯ならなんとかイケる?まぁしばらくは在室中に観察を続けていきます。
あと動作音としてはたまにカチっとリレー音がするのみで無音です(ファンがオフなので当然ですが)。
■3Dプリント品で使ってみる
さっそく3Dプリントしたものを処理してみました。使用したのはプロト用の激安フィラメントです。
GratKit PLAプラス フィラメント PLA Plus 3Dプリンター フィラメント 1.75mm 寸法精度+/-0.03mm 強靭 PLA+…
ちょうど格子状で比較しやすい造形品があったので、これでテストします。かける氏の動画では100℃で加熱して縮みまくっていたので、今回はBambu Labのフィラメントガイドにある「50~60℃で6~12時間」というのを目安にして、50℃/6時間でやってみました。
結果、50℃でもめっちゃ縮みましたorz。
写真の左がオリジナルサイズ。右が加熱後です。
長辺方向が220mmくらいなんですが、6,7mmくらい小さくなっています。3%くらい縮んだ形。また折角に縮むだけならまだしも、歪みも出ていて、フラットな面に置いた時、一部が浮いていて指で押すとカタカタ動くレベルです。これだとちょっと正確なサイズが重要なCADモデルでは辛いですね。
今回試したのがBambu純正フィラメントではなく安物なので、後日BambuのPLA Basicでも比較してみようと思います。
仮にもっと低い温度、短い時間に留めて変形を防止できるとして、肝心のアニール処理の効果まで弱くなってたら意味がないですしね。うーむ。
Bambu純正のPLAフィラメント(PLA Basic)の場合
(追記予定)
シリカゲルの再乾燥をしてみる
AMSの除湿に使っているシリカゲルを加熱皿にあけて再乾燥してみました。シリカゲルには吸湿度を示すカラーがついた粒が含まれており、かける氏の動画によると130℃程度でこのカラーマーカーが破損してしまうらしく、触れないほど熱くなってしまう電子レンジやフライパンよりも安全かもとのこと。氏の動画では120℃で加熱してましたが、本オーブンは高温モードだと最長1時間までしか加熱時間をセットできないので、低温Maxの90℃で3時間にセット。1.5時間くらいで未使用品くらいの色味になったので加熱を終了しました。
小粒のシリカゲルは油断するとすぐに跳ねて散らばってしまうので、AMS内の乾燥ボックスからこの皿にあけたり、逆に回収して乾燥ボックスに戻すのがちょっと大変。加熱皿の底は縦溝た多く入ってるので、かき集めるのもやりづらかったり。なにか代わりの耐熱でフラットな皿を物色したいところです。
2024.8.24追記:
これでいいんじゃないかと思っています。23x23cmのケーキ型です。鉄にシリコンカバーがしてある模様。シリカゲルは入れ込む時に跳ねてとびちったりしがちなので、ある程度深さがあるのもヨサゲ。
2024.8.28追記:
シリカゲル再換装に使う金属皿は結局DAISOで「ケーキ焼型」を買ってみました。ラベルのデザインが違いますがJANコードも一致するのでこれですかね。税抜き200円なので上に貼ったものよりかなり安いし、万一ダメでも諦めつくかなって。
表記のサイズは23cm x 22cmで25cm角が置けるはずの本機の網にほぼピッタリ。厚みは実測で54mmほど。シリカゲルのような跳ねて飛び散りやすいものを扱うにも余裕があると思います。
ちょうどこないだ再乾燥したばかりでまだテストできてませんが、とりあえずメモとして記録。結果はまた追記します。