格安ノギス実測ベンチマーク

開催主旨

3Dプリント品のカスタム依頼を受ける時、依頼人の手元にしかないものの正確な寸法を測ってほしい時が多々あります。特に円形のもの(ウチだとドアのサムターンとか)は普通の定規ではきちんと測るのは難しいし、百均のプラ定規とかだとそもそも目盛りの精度すらあやしい。

「ノギスお持ちでしたら〜」と言いたいですが、なかなかお持ちでない方も。しかもそんな「ノギスってなに?」って方にアナログノギスを買ってもらっても目盛りの読み方を理解してもらうハードルが。じゃぁデジタルノギス買ってくださいというのもなかなか。

ただ最近は数百円の安いデジタルノギス(最小単位0.1mm)もちょくちょくあるので、一度それらがどれくらいアテになるのか手元で検証してみたいなと思ったのがきっかけです。

実際はその格安ノギスで計測して治具を製作して、それがピッタリはまるか、という観点で評価するべきなんですが、まずは第一段として、計測値の精度テストをしてみたいと思います。

検証方法

今回計測対象としたのはこちら。

右は普通の単一電池。これの直径と全長を測ってみます。「丸いもの」「小さな突起があるもの」という定規では難しい2タイプの計測をまかなえます。

左はちょうど別件で必要になって買ったピンゲージです。ピンゲージとはまさにサイズ合わせの基準とするツールで、バチバチの精度で作られた丸棒です。3DプリンターでΦ8mmインサートナットを作りたい時に、きちんとそのサイズの穴が空いてるかチェックするのにいいかなと思って注文してました。多少の誤差がないと刺さらないこともあるので、わずかに大きい8.05mmを購入。今回はその0.05mmがどうでるかも見所の1つです(まぁ無理だろうけど)。

新潟精機 SK ピンゲージ 8.05mm AA8.050

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計測方法としては、0.01mmノギスの計測値を正解として一番最後に計測。より精度の低いノギスで目盛り間の値も主観で読んで測定値とします。乾電池の方は正解を知らない状態で測るので、より実戦に近いかなと。

参加選手

今回のユースケースに基づき、全国のチェーン店舗または通販で短期で購入できることを条件としました。アリエクでもっと安いのがあったとしても1週間とか1ヶ月もかかってはやりとりが滞ってしまうので。

1mm勢

まずは激安組としてDAISO、Seriaの100円簡易ノギス。簡易というだけあって1mmまでの目盛りしかない。1.0mmではなく1mm精度という感じ。あくまで円形や隙間、深さを測るのに定規よりは当てやすいよね、という商品です。本来ノギスと呼んでいいのかあやしいので、「簡易ノギス」とか「ホビーノギス」という商品名です。

ただこれが実用になるのであれば、全国どこでも110円で買えるのでお願いしやすいし、なんならこちらからメール便で送りつけてもいいです。目測で目盛りと目盛りの間を読めば、0.3mmくらいの精度はでないか?と一抹の期待で参加です。

0.1mm勢

携行用、車載ように買ってあった安い0.1mm精度製品をいくつか。

E-Value EDV-75

イーバリュー(E-Value) デジタルノギス EDV-75 ミニタイプ 75mm

イーバリュー(E-Value) デジタルノギス EDV-75 ミニタイプ 75mm

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7.5cmまでしか測れないミニデジタルノギスです。執筆時点の価格は1,780円。いつもサコッシュに入れて持ち歩く用(最近サコッシュ自体を持ち歩いてないけど…)

シンワ測定 19990

執筆時点で2,333円。激安とまではいかないまでも格安デジタルノギスとしては国産だしまぁ標準的な位置づけかなと。自分のメインもシンワ測定なので、サブとして車載工具箱にいれています。安いながらLR44電池ではなくCR2032なのがポイント。LR44はすぐ空になって使おうと思ったら電池切れてる、ってなりがい。でも2,000円超えるとちょっと相手方に買ってくれとは言いづらいですね。まぁひとつのリファレンスとして。

DAISO デジタルノギスSV(参加保留中)

DAISOには0.1mmのデジタルノギスがラインナップされているんですが、自分の近所も含め全国的に在庫がある店が少なく、相手方に買ってくれとお願いするのも難しいので今回は外しました。その供給が安定してきたら買って追加参戦するかも知れません。700円で全国店頭で買えるなら悪くないと思うので。

DTY デジタルノギス

写真に写ってませんが、Amazonで買える最安値集団の中から国内発送ですぐ届くものを1点追加。執筆時価格は598円と上記DAISOより安い。プライム会員じゃないと送料がかかるのでトントンくらいでしょうか。

プラケースが付属しない簡易版なら588円ですがまぁ10円ならケース付きを買った方がよいんじゃないでしょうか。あと中国発送で20日くらい待てるなら498円とかもありました。

0.01mm勢

シンワ測定 19180 データ転送機能付き

私が普段計測作業に使っているメインノギスで0.01mm機です。Bluetoothキーボード(HID)としてPCやスマホとペアリングして、計測値を数値キー入力として流し込むこともできます。

これの精度がどうかはさておき、個人的にはこちらがリファレンスということになるので、今回の比較でも正解値として扱いたいと思います。

結果

結果です。

至極順当に、1mm勢だと0.3mm程度の誤差、0.1mm勢だと0.1mm誤差くらいは出る感じすね・

1mm勢は目盛り幅が実測で0.3mm幅くらい、目盛りと目盛りの隙間が0.7mmというのをイメージして読んだ感じでちょっとコツがいります。動く側の▲も太いのでどこ基準でみるかは0位置も観察しつつで自分なりにロジックを決めてやる必要がありますね。あまりこだわりがない方だとそこまで深読みはしてくれない気がします。あと物理目盛りは老眼にはめっちゃ辛い!お相手がお年を召した方の場合はちょっとお願いするのは憚られるかも知れません。

DAISOとSeriaならDAISOを推します。白地に黒目盛りの方が読みやすかったのと、印刷自体もクッキリしています。Seriaは0-5mmくらいのところは印刷が滲んでいて、▲の先端が目盛り側に印刷されちゃってるという雑さです。個体差かと思ったんですが、店頭の在庫数点を見比べても同じ傾向でした。

デジタルは読み方にコツとかも必要なく、出てきた目盛りを読みとってもらうだけなので、あとはノギスの当て方だけ間違えなければ良いので、その意味も含め信頼性は高いですね。やはりというか可能ならデジタルノギスをオススメしたいところです。今回600円程度の安いものでも2千円台のシンワを同等の精度が出ることがわかって良かったです。

あと0.01mm勢にもなると、当て方ひとつで数字がかわるのでどの値を採用するか迷いました。何度か当て直してなんとなく代表値っぽいものを採っています。

まとめ

0.01mm勢を基準として、0.1mm勢>1mm勢と順当に誤差が大きくなっていくことが検証できました。1mm勢の物理目盛りはそれなりにルールを決めて補完してやっとという感じなので、他人に測ってもらう時にはもっと誤差が大きくなる可能性も高いです。また精度以前に老眼殺しだということも判明。なんやかんやであまり人に薦めたくはないなと。110円で買えるのは魅力なんですが。あとはまぁ0.3mm誤差というのが3Dプリント設計にどれくらい致命的かですね。肌感覚としては部品と部品がバチっと噛み合う精度は0.1mm精度くらいで調整してる気がします。その意味では0.3mm誤差はちょっと荒いなぁと。もちろんそこまでピタっと精度を出さないとならないところばかりでもないですが。

やはり3Dプリンター設計用の寸法計測に使ってもらうなら、最低ラインとしてはDTYか、将来的にDAISOのデジタルノギスSVが潤沢にどこの店舗でも買えるようになってくれればそちらかなぁ。ただ100円ノギスでも定規よりは全然マシだとは思うので、「今後絶対使わないし700円はちょっと…」って人には、「ではせめて100円ので」とお願いするのはアリか、ってとこですかね。あるいは送料折半にしてもらって手持ちのノギスをクリックポスト(片道185円)で貸し出すくらいした方が、あとであわなくて作り直しになるよりはトータルでは安上がりかもしれません。

Bluetoothで測定値を送信できるシンワ デジタルノギス 19810

3Dプリントのモデリング作業をする時、精密なサイズを測るノギスは必需品です。なにかにピッタリはまるものを設計しようとすると、そのなにかの正確なサイズデータが必要だからです。定規などのミリ単位の計測だと精度も不足ですし、例えば円筒形状のものや穴などの正確な直径を測ったり、凹みの深さを測ったりといった用途には定規やメジャーでは不向きです。

写真は数年前に購入して使って来たノギスです。2016年になんと1,400円+送料で購入したもののようです。

数年前に購入したもの

お値段の元は充分に回収できるほど活用してきましたが、1つ不満点がありました。電池がメッチャ減る!というか、ふと使おうとすると電池が切れている、ということが起きまくりでした。電池はボタン電池のSR44なので、他であまり使わず予備が自宅にない!なんてことも多々。SR44と同形状のLR44ならワンチャンコンビニでも手に入るのですが、特性が違うためSR44想定の機器にLR44を使うとより電池入れしやすいということもあるようです。自分はそれを知ってSR44を買うようにしていましたが、それでもちょいちょい電池切れしてました。写真にもあるようにケースにわざわざ予備電池を入れておくスペースがあるくらいなので、メーカーとしてもスペア必須であることは織り込み済みなんでしょうか。なんなら「使わない時は電池外してここに入れとけ」くらいの意図かも知れません…

ともあれ使いたい時に使えないのもストレスですし、廃棄ボタン電池を量産するのも心苦しいと感じていました。

先日キレたというか、まぁこれだけよく使うものだしもうちょっといい製品があったら買い換えるのもアリか、と決意。まずはいまどきUSB充電のできるものはないかと思って探してみました。しかし見付からない。まぁ充電池内蔵だと寿命が来たら使い捨てになる可能性も高く、こうした業務機器には馴染まないのかも知れません。

結局購入したのはこちら。

シンワ測定製の19810という型番の製品。使用電池はSR44の公称容量165mAhに対し220mAhのCR2032です。クルマのスマートキーなどに使うので入手性も高め。

ちなみに世の中にはCR2032Hという240mAhのものがあるらしいですが、コスパがどうかは不明。

国産だとマクセルが出してるぽい記事が散見されますがAmazonではこれくらいしか見付からず。メタデータがノーブランドになってたり、2032Hと明記されていないものの、写真をみると刻印にHとついてますね。海外品だと多少ありますが、もとが1割以下の差なので国産一流メーカーの220mAhの方がきちんとスペック通り出て実質長持ちなんてこともあったりするかも?

あとサイズというかどれだけのものを測れるかという違いで150mm、200mm、300mmと派生モデルがありましたが、数年使ってて150mm以上必要だったことはなかったので今回もコンパクトさと価格を優先して150mmモデルにしました。

あと液晶の数字表示が大きくなるのも老眼はいってきてる目にはやさしいかなというのも買い換え理由のひとつ。

■Bluetooth経由のデータ送信機能!

電池容量が大きくなったとは言え、倍も違わないのでSR44を使う既有品と実効的にどれくらい保ちが違うかは未知数ですが、本製品にはもうひとつ特長があります。Bluetoothキーボードとして動作し、PCやスマホ(専用アプリあり)に計測値を送信することができるのです。

似たような話では以前購入したレーザー測距計がありました。

計測ライフが激変!レーザー測距計 BOSCH GLM50C

精密測定をすると桁数も増えるので、誤記なくPCに転記できることは楽チンかつ安心です。

このノギスも同じようにスマホアプリやPCに測定値送信ができるのです。少し前に探した時は2万くらいする印象で手が出なかった記憶があるんですが、今回改めて1万円しないものを見つけたので、電池容量の件と合わせて買い換える価値ありと判断しました。

PCとペアリングして使ってみた

専用スマホアプリもあって、写真と組み合わせて測定値を記録できるようですが、当面の用途としては、Fusion 360でモデリング作業をする時の数値入力になります。PCとBluetoothペアリングをして使ってみました。

PCからみるとBluetoothキーボードとして認識されるわけですが、少し惜しい点も。テキストエディタにカーソルを置いて送信してみると、どうも「(半角スペース)計測値(改行)」が送られてくるぽいです。

下の写真はFusion 360のスケッチで矩形を作成する場面です。

縦と横のサイズを入力するフィールドがあり、TABキーでキャレットを行き来してEnterで生成実行です。つまり、どちらかの欄にキャレットを置いてノギスからデータ送信すると、もう片方を入れる前に確定してスケッチオブジェクトが作成されてしまうのです。もちろん後から編集はできるんですが、二度手間になる感じ。円とか押し出しとか値が1つしかない場面も多く、その時は改行コードで確定してくれてもいいっちゃいいんですが、場面によってそれを使い分けるのもちょっとなという気がします。個人的には数字だけ送信してくれればいいんじゃないかなというのが現時点の印象。使い込んでいくとまた意見もかわるかもですが。

バーコードリーダーとかだと設定で、値の前後にどんなキーコードを付与するか選べたりするんですが、通常PC側からBluetoothキーボードにデータを送り込む仕組みがないので、やるとすると別のデバイスクラスを実装したりとかなりコスト高になるんですかね。

せめてノギス側にEnterボタンとTABボタンが物理で備わってると嬉しかったかも。短押しだとTAB付加、長押しするとEnter付加、とかとか。

Fusion360側でキーボードによる確定動作をカスタマイズできないか設定画面を探ってみましたがこれも不発。

ちなみにExcelでは値入力後、Enterで下へ移動、TABで右へ移動なので、やっぱりノギス側で使い分けできるといいかなと思います。Excelは設定でEnter時に右へ動くようにもできますが、普段の操作に影響が大きすぎるので変えたくはないものです。

また頭に半角スペースが入るのも謎ですが、実害はなさそうです。Fusion360でもExcelでも無視してくれます。でもなんか気持ち悪い…

■その他のちょっと惜しいポイント

付属ケースが惜しい

既有品も本製品もハードケースが付属しています。精密機器なのでショックから保護する意図があるんでしょうか。写真の上が既有品、下が本製品のものです。

本製品はロックが二箇所になっているので、片手でサッと開けることができなくなってしまったのが残念ポイント。

電池交換に工具が必要なのが惜しい

本製品は電池スロットがSIMカードのようなトレイ型をしており、引き出すにはマイナスの精密ドライバーが必要です。付属はしているんですが、ひと手間に感じます。既有品のように、「気付くと電池がなくなってるので、普段は抜いてしまっておく」となった時にはかなりしんどいです。これはそもそもその問題が解消していることを期待するしかないですね(抜いておく必要がないならそれにこしたことはない)。

またドライバーをケースに格納しておくにもケース内でもカラカラいいそう。せめて既有品の電池スペースのように、ドライバーと予備電池を固定して格納できる空間があると良かったなと思います。

■まとめ

レビューとしては文句ばかりになりましたが、文字が大きく、Bluetooth送信もできるので基本性能としては満足しています。自分のように激安品からステップアップしようかという方にはお手頃な製品なのではと思います。

あとは「電池がいつのまにかなくなってる問題」が起きないといいなと思います。

ケースはそれこそ3Dプリンターで理想のものを自作するのもいいかも。いや百均とかでちょうどいいプラケースを見つけて、ウレタンスポンジを切り抜いて詰める方がいいかな?