スマートキーを3Dプリンターでよりスマートにしてみる

自動車のスマートキーって言うほどスマートじゃないですよね。キーチェーンにぶら下げて持ち歩くのには大きすぎる。もう10年20年のレベルで進歩がない。大きさもそうですし、リレーアタックのようなセキュリティの脆弱制も放置されたままだし、未だに1台に1つ持ち歩かないとならない。せめて同じメーカーの車両なら複数台を1つのスマートキーに登録できるようになってほしいものです。

我が家は35クラウンと30プリウスがあり、それぞれのスマートキーをキーチェーンにぶら下げています。クラウンはデジタルキー契約もしているのでスマホアプリで解錠や始動もできるんですが、やはり数タップの手間やつながるまでの時間がもどかしいのと、「津波などの災害時に車を路上などに置いて避難する際に鍵を置いていく」ということを考えると、普段からスマホ(デジタルキー)だけで運用するのは現実的ではないられるです。

「せめてもっと小さくならんもんかなぁ」というところでGWの自由研究課題として小型ケースの作成に勤しんでみました。なお、あくまで自身の3Dプリンティングの技能修練のための試行であり、ワンチャン電波法にひっかかる恐れがあるのでマネされる方は自己責任でお願いします。軽く調べると、トヨタのスマートキーでも中の基板の技適番号は同一で外装が違うものが存在するらしいので、技適は基板レベルで取得しており、ケースは替えても問題ないという可能性もありますが、とりあえず今回は

  • 特定の基板の寸法を測り、ピッタリのケースを製作する

という課題としての取り組みです。目標とした仕様としては、

  • ロック、アンロックボタンが押せる
  • 電池交換ができる
  • ネジや接着剤を使わずスナップフィット(パチ組み)で組み立てられる

あたりを満たしつつ、なるべく小さくすることを目指しました。

■設計編

クラウンのキーはボタンが3つあり対応が大変そうなので今回は30プリウスのキーを対象にします。

電池交換を自分でしたことがある方は見たことがあると思いますが、フタを開けるとこんな感じになっています。黄色の数字がついたものが元々のパーツです。

  • ①外装(上下サンド)
  • ②メイン基板と電池
  • ③ホコリ侵入シリコンカバー
  • ④今回自作したボトムケース
  • ⑤今回自作したトップケース
  • ⑥ロック/アンロックボタンパーツ

見ての通り②の基板に対してケースが一回り大きいのが不満なわけです。写真に撮り忘れましたが実際にはサイドに物理キーが収納されるスペースがあるので1辺は仕方ないにしろ、他の3辺のマージンは強度確保のためなんでしょうか?

今回はそれらをギリギリまでそぎ落として④⑤のパーツを自作しました。

ボトムパーツからは6本の細いピンが生えていて、それで基板を固定しているようですが、こういうのが3Dプリンターでは難しいんですよね。層の境目で簡単に折れてしまいます。長い辺を立てるような向きで造形すればいいんですが、そうすると垂直方向の形は精度が悪くなりがちだったり。まぁ位置決めの目安にして、基本は外周をピッタリにすることで固定はできるかなという印象。

シリコンカバーは水やホコリの侵入を防いでくれそうなのでそのまま流用することにしました。柔らかいのでノギスで正確なサイズを測るのが難しかった。

ロック/アンロックボタンは基板上に2つのマイクロスイッチがあり、それを外装のボタンパーツで押し込む仕組みです。ボタンパーツを使わない方が厚みが抑えられそうな気もしましたが、今回はこの形状をきっちり計測して穴空けをしてみるのを課題とし、ボタンパーツも流用することにしました。定規と一緒に真上から写真を撮り、それをFusion360に「キャンバス」として取り込み、形状をなぞるようにスプライン曲線を引いていく手順をとりました。

ケースの角をフィレットで丸くして握った時の手触りをよくし、体感的な小ささも出すようにし、最後にキーホルダーとしてぶら下げられるよう半円状のリングをつけました。

■造形編

3Dプリント道はFusion360のようなモデリングツールで3Dモデルを作って終わりではなく、むしろその後の出力(造形)で苦労することが多いです。モデリングツールに戻って設計変更したりも普通にあります。なにが難しいかというと、

  • きちんと精度を出す
  • 強度を確保する
  • 綺麗に出す
  • サポート材を極力減らす

といった観点で使うフィラメントの種類、造形する向きなどを変えたり、層数やインフィル率を調整します。3Dプリントの中身はプラスチック樹脂がみっちり詰まっているわけでありません。そうすることもできるけど素材の無駄なので、外壁を2層とか4層で作り、中は編み目構造のようなもので支えつつも基本はスカスカです。この密度(インフィル率)も思案どころなのです。

今回のモデルでいうと、上下に分割された箱なのでインフィルがどうのという箇所はほぼなくて、板と棒の組み合わせです。この場合、強度と綺麗さのせめぎ合いという感じ。当然ケースの外側、特に上下面を一番綺麗に出したいので、それを上か下にします。下にするとビルドプレートの質感がそのまま出ます。今回はスムーズPEIというツルツルめのプレートなので割と綺麗。また外装面が下だと上側に屋根ができないのでサポート材がほぼ不要になります。逆に外装面を上にすると最終工程で「アイロン処理」というのが使えます。フィラメントを吐き出す金属のノズルを加熱して(フィラメントを吐かずに)造型物に当てて擦ることで表面を平らに均す処理です。こちらの方が面の仕上がりは上ですが、屋根を作ることになるので、下側に大量のサポート材が必要になります。単純にフィラメントがもったいないというのもあるんですが、除去の手間も増えるし、さらにサポート材の上の面、今回でいうと天井側がどうしても汚くなります。下の写真は外装を上にして下にみっしりサポート材を構築し、それをむしり取ったあとの面です。(素材はPETG-CF)

かなりザラザラです。サポートはがしも苦労しました。しかもその作業の過程でスナップフィットの爪を4本中2本折ってしまった…

爪が片側ないので実際にはケースがはまってないんですが完成イメージがこちら。

CF(カーボンファイバー)を練り込んだPETGで、アイロン処理もしているのでなかなか綺麗な質感になりました。しかしPETGならそう爪も折れまいという期待は裏切られてしまいました。サポートフィラメントを使えば簡単に爪を破損せずに除去できるかもですが、PETG用のサポートフィラメントはBambu Lab公式ストアでも欠品中のまま。水に溶ける水溶性フィラメントも品切れ。公式ストア、品切れ多すぎ問題ェ…

ということで、今回は手持ち材料でどうにかするべく、外装は下向きにしてX1c購入時にオマケでついてきたPLA用サポートフィラメントも開封してPLA-CFで再造形してみました。

外装面を下にしたことでそもそもサポート材が貼り付く部位が劇的に減った上、素材自体が異なるので剥がすのは劇的に楽でした。一方で外装面は平らは平らなんですがフィラメントの軌跡が割と残ってしまってますね。下向きにしたことの弱点と言えます。ペーパーがけとかしたいところです。

サポートフィラメントは材料として使うフィラメントの倍以上の単価なので、「捨てる部分が本体より高いなんて…」と躊躇しがちですが、確かに下面を綺麗に仕上げるには有効だなと実感。オマケではちょびっとしか付属してこないのでストアに再入荷したら補充しようかな?ただPLA用とPETGは別だったりするので、最終的には更に高いけど水溶性フィラメントの方が使いやすいし更にベッタリサポートさせて綺麗に出せるのかも?社外フィラメントも含めて今後の検討です。

また今回はとにかく寸法あわせの試行錯誤で何度も造形することになりそうだということで、プロトタイピング専用にとにかく安いフィラメントを買っておくことにしました。今回買ったのはこちら。

約1,400円。公式ストアのPLA Basicが4,000円くらい。社外の名の知れたメーカーのPLAフィラメントが3,000円弱くらいなので、かなり安いと思います。スプールは紙でいつものようにAMS用にビニールテープを巻いてやろうと思ったんですが、最近噂のコーティングがされてるようでした。こうした激安ブランドまでBambuのAMSを意識してくれてるんですかね。ただそれと関係するか不明ですが、AMSで何度かフィラメントが詰まるというか引き出せなくてエラーになりました。手でひっぱっても動く気配がなく、背面のチューブを抜いてそこから引っ張ってやる必要がありました。これはTINMORRYのPLA-CF(上の写真の青いヤツ)でも起きます。スプールの素材とは関係なさそう。固めのフィラメントで起きる?またX1cにしてからは珍しい1層目のはがれもありました。うーん、やはり安いなりの品質?一応プロファイルはメーカー指定の温度範囲をセットしたんですが。

■まとめ

技適(電波法)的に常用していいかどうかはともかく、3Dモデリングによるケース製作という自主練課題的にはどうにか形にすることができました。メカニカルキーがいらない(別で持ち歩いたり、隠す場所がある)人には結構ニーズがあるんじゃないかと思うのでなんらかの方法で頒布してみたい気もしますが、同種のものを誰も売っていないところをみるとなんらかダメな理由が有るのかも知れません。

各自動車メーカーはこの名ばかりの”スマート”キーをもっとスマートにする(サイズだけでなく機能、セキュリティ面でも)取り組みを頑張ってもらいたいと切に願います。

2024.05.14追記

ボタンの誤動作が気になったのでアッパーケースを再設計してみました。

純正のボタンを流用するのをやめて、ケース自体のたわみを利用して押し込んで中のマイクロスイッチを押す構造にしました。ボタン位置はX1-CarbonのAMDで別色のフィラメントでアイコンを描いています。シールとかではないので剥がれたり剥げたりする心配はありません。

トップ面がたわむように薄くなってるので、副作用として、実は基板上にある動作確認用(?)の赤LEDランプが透けて見えます。ちょっとわかりにくいですが左上の丸の部分の下にLEDがあります。

このグレーのフィラメントはサイズ検証用にキロ単価の安いものを使っただけですが、いい感じにツートンになりこれはこれでアリなんじゃないかと。ペーパーがけも塗装もしてないので素材感丸出しですが。先日0.2mmノズルを入手したので(標準添付は0.4mm)、それを使えばより細かい造形もできそう。

2024.11.07追記

落としたら爪が割れたので再度造形。上記のでもまだポケット内などでちょっと力が加わるとアンロックボタンが押されてしまうことがあったので、微妙に形状を調整。ケース真ん中あたりをかなり強く押し込んでも反応しなくなりました。一方で、開閉ボタン自体の反応も若干固くなったかも。

AMSのマルチカラー造形で、側面2本ずつの爪を下側ケースと同色にしたらいい感じになりました。一方、フタ側を白で造形してみたら、ボタン部分の薄くなっている部分が透けてしまった。次に作るなら濃い目の色がよさそう。

X1-Carbon Combo、一ヶ月所感

Bambu Labの3Dプリンター、X1-Carbon Comboを導入して一ヶ月ちょっと過ぎました。

改めて使用感などをまとめていこうと思います。

モジャリ事故ゼロ!

まず素晴らしいのは途中で造型物がプレートから剥がれてしまって以降のフィラメントが積層される場所を失ってスパゲティを生成してしまう事故が一度も起きていないという点。AIカメラがスパゲティ検知して造形を止めてフィラメントの浪費を防いでくれる機能がついてるはずですが一度も発動したことがない。

何時間も出力にかかった挙げ句のスパゲティは本当にガックリするので、まずここで失敗がないのは嬉しいです。

また剥がれは1層目の定着の問題が大きいわけですが、1層目が綺麗に造形できてない時に「失敗してるかもだけど続けますか?」的にポーズしてくれる機能は1,2回発動したかな?いずれも後述の社外フィラメントで正常にフィラメントを送れてなくて荒れてしまったんだったかと。純正フィラメントを使ってる限りノートラブルだった気がします。

ビルドプレートはスムーズPEIが最高か

純正だけでも数種類あるビルドプレートですが、初期付属の常温プレート(裏面はエンジニアリングプレート)、追加で高温プレート、スムーズPEIと試しましたが、いまのところスムーズPEIが最高です。めっちゃすべすべしていてPLAは糊を塗らなくても良いし、取り外しも楽々。キャリブレーション用のラインも気持ち良くスーっと剥がれます。

他は糊推奨ということでスティック糊や液体糊を塗ってますが、塗るのも面倒くさいし、定期的に洗わないと固着して凸凹してくるしで面倒。また常温プレートは結構強固に定着するので剥がす時も大変。高温プレートは剥がすのはやや楽だけど造形中の冷却ファンの騒音が大きい。スムーズPEIもPLA以外では糊が必要とのことですが、当面はほぼPLA運用だし、PLAはスムーズPEIを使い、PETGは高温プレートという感じかな。

いまんとこ常温プレートはコスト以外メリットがない印象。なんか高圧洗浄機ケルヒャーの(スタンダードモデルの)標準付属ホースがねじれで使い物にならなくて、ほぼ高いホース買い換え必須、みたいな話を彷彿とさせます。差額払ってもいいから最初からスムーズPEIつけといてほしい。スムーズPEIは冷ましてから剥がさないとダメージ入る可能性があるというのが難点。連続造形用にもう一枚買い足したいかも。

非純正スプール問題はビニテで解決?

先にも書いた非純正フィラメント、というかスプールに起因する問題。例えば紙スプールにプラリングを取り付けると滑って正常にAMS内で回転しないとか、0.5kgフィラメントの小径スプールもダメとかいった問題がX1Cを使ってて苦労したトラブルのほぼ全てだった気がしますが、最近ようやくプラリングではなくビニールテープを巻くというハックで解決した気がしています。ちょうどそのタイミングで紙スプールのフィラメントを使い切ってしまったんで追試ができてないんですが、3Dプリントしたリングよりも全然安定して動きます。

ちょっと高いけどなるべく純正フィラメントで運用していこうかなって思ってたんですが、これなら紙スプールのOVERTUREやeSUNを選んでもさほど苦労しないで済むかも?と期待。純正だとNFCチップでフィラメントの種類や色を自動判別してくれるのは便利ですが、価格も高いし、後述の通り公式ストアは品切れしてることが多くで、ほしいときにすぐ手に入らない問題などもあったりで、そこまでして純正にこだわらなくていいかなという気が強まってきました。

サポートフィラメント・デビューするべきか

品質的なことで気になってるのは、ブリッジ面(宙に浮いてる下側の面)が汚いこと。3Dプリンターは原理上、樹脂素材を下から積み上げて造形しますが、それ故に中に浮いた形状は作れません。その時はサポートといってダミーの構造物を積み上げて、あとからそれを除去する、という手法を採ります。サポート部分を本来の造型物の部分は後でスムーズに取り外しができるよう、密着度を粗にするので、どうしてもその面がザラついてしまいます。

そこでせっかくAMSがついているX1Cではサポート用フィラメントというのがあり、メインの造形樹脂とは異なる素材のフィラメントを使うことで形状的な密着度を上げても接着度は高まらないようにすることができます。これのサンプルフィラメントが付属してるんですが、もったいなくてまだ使ってません。Facebookグループの投稿などをみてても「ここが汚いのどうすればいい?」→「サポートフィラメント使え」みたいな会話が延々とされているので、それなりに効果はあるんだと思いますが、割と単価高いんですよね。造型物よりも捨てる部分が高いのはどうなのって思ってしまうw。でもまぁ造形品質上げるにはしょうがないことだろうし、ここぞという機会で使ってみたいと思います。

フィラメントドライヤー・デビューするべきか

同様にまだ踏み切れていないのがフィラメント・ドライヤー。文字通りフィラメントを造形前、あるいは造形中に換装させる装置。フィラメントは放置しておくと空気中の水分で湿気って劣化していきます。PLAはそれほどでもないですが、ABSとかTPUはヒドいらしい。

いまのところ気になるほどの劣化は感じてないんですが、これから高湿な季節も来るし、3Dプリントを始めた昨年以上に多色、多種なフィラメントを買い置きするようになってきているので、在庫期間も長くなってくるし。明らかに造形に失敗するレベルの劣化をしてなくても、やはり仕上がりに差が出るとみんな言ってるんですよねー。失敗を防ぐというより、より品質が上がるならばという感じでちょっと気になってます。特に透明のTPUを使った時の透明度が違ってくる、というのは気になるところです。

X1Cはチャンバー内でフィラメントを乾燥させる機能もついてますが、それで何時間も専有してしまうのもなんだし、やはり「パンが焼ける電子レンジ」と同じで無駄に広いチャンバーを使うのは非効率だと思うので、ちゃんと乾燥運用をするなら専用ドライヤー買った方がいいんだろうなと。またABSとかTPUみたいな造形中ももりもり湿気吸うレベルの素材だと、X1Cの乾燥機能で乾燥しおわって造形するのではなく、ドライヤーからダイレクトに乾燥する端からプリンターに送る、くらいするのが良いとのこと。

たくさんあるPLAはすべて管理するのは大変なのでまぁあまり気にせずAMS内の除湿剤や、真空ビニールパックで済ますにしても、TPUをちゃんと活用するなら買おうかなと。

現状第一候補はこれ。

素材別の温度/時間プリセットを選択する方式。これの1スプール版かいっそ4スプール版に特攻するべきか、置き場所の問題も含めて思案中。

公式ストアの品切れ多すぎ問題

先に書いた公式ストアのフィラメントやアクセサリ、補修パーツの品切れ多い問題が気になっています。品揃えが良いのですが、いざ買おうと思うと品切れってことが何度も。再入荷通知登録とかもできるんですが、届くより先にフラっと見にいったら入荷してた、なんてことも。というか一度もメール受け取ったことない…

公式ストアは営業日ならだいたい翌日発送で佐川で来るので、中二日くらいあれば届くんですが、それでもAmazonお急ぎ便に慣れてる身からするともどかしい。一応Amazonにも公式ストアがあるんですが品揃えが少ない上に結構な価格差があって使い物にならないんですよねー。

この辺りがもう少し改善すれば純正品を使うモチベーションも高まるのになと。

まとめ

大きな買い物でしたが現状、非常に満足しています。楽しい。稼働率爆上がり。

社外フィラメントを上手く使う道筋もつきそうなので、これからますます活用し、更なる品質や効率、コスパを求めていこうと思います。

AMSで紙スプール使うにはもうビニールテープでいいんじゃないか?

3Dプリンターのフィラメントはスプールと呼ばれるリールに巻き付けて売られています。このスプールが元はプラ製だったのが最近一部メーカーは段ボール的な紙で提供しています。OVERTUREとかeSUNといった大手も基本紙のようです。

これがBambu Lab X1-Carbonのフィラメントフィーダーシステム、AMSと相性が悪いです。

  • 摩擦の関係でローラーが滑って正常に送り/戻しができない
  • 紙が削れて粉塵となりギアなどに噛んで故障の原因となる

などと言われています。(と思っていました)。

そこで、写真のようなフレーム部品(緑色)を3Dプリンター自身で造形してとりつけるのが一般的です。

しかしこれがやってみるとなかなか上手く機能しませんでした。むしろ滑ってしまって巻き取りができず出力が止まりまくりです。ツルツルのPLAがダメなんかとPETG素材で出してみたり、外周がギザギザしたデザインのものを使ってみたりするもどれもイマイチ。「もう二度と紙スプールのフィラメントなんか買うもんかウワーン」と思いながらなんとかあるだけ使い切ろうと頑張ってきました。

しかしようやく写真の2スプールとも残りあとわずかというところで、なかばキレつつフレーム無しで使ってみたところ、ウソみたいにばっちり回転してくれるじゃないですか。「紙だと滑ってダメ」というのは都市伝説か自分の記憶違いで、普通に使えます。冷静に考えてみれば見るからに樹脂より摩擦高いよねと。

しかし、「紙が削れた粉塵が機械に悪い」というリスクは以前と残るのでそのまま使うわけにもいかず。あらためて海外掲示板なども含めてググってみると「electrical tape巻いときゃOKよ」という記述が。絶縁用のビニールテープのことですよね。

確かに摩擦だけでいうとパーマセルテープみたいなのがヨサゲですがこれも結局紙なので削れてしまいそう。早速手近にあったビニールテープを巻いてみました。

もうね、いままで散々苦労した紙スプールのフィラメントが魔法のように正常に使えちゃいましたよ。今までの苦労はなんだったのかと。多色出力すると層毎に何度も引き戻しして、その度にエラーになってで、つきっきりで手動巻き取りしないとだったのがウソのよう。これまでの造形トラブルはほぼすべて社外フィラメント(というかスプール)に起因するもの(紙スプール、小径スプールなど)だったので、「今度は(高いけど)Bambu Lab純正フィラメントでやってくぜ。少なくとも主要素材・カラーは純正NFCチップ入りスプール付きを揃えて、フィラメントを入れかえて使うぜ」と心に誓ってましたが、紙スプールでもこんな簡単なハックで普通に使えるならフィラメントの質としては問題なくコスパも良いOVERTUREやeSUNを使っていってもいいかなーとか。

2024.7.26追記

夏になって室温が上がったら貼ったビニールテープがデロデロに剥がれてきました。粘着剤が緩くなってビニール素材の真っ直ぐに戻ろうとする力が勝ってしまったという感じ。うーむ、粘着力の強さ自慢のビニールテープとかあんのかしら?とPerplexityさんに聞いてみたところ、スコッチの電気絶縁用ビニールテープの「プレミアム」というのが出てきた。調べると、一般品が80℃に対しプレミアムは110℃までの耐熱性があるらしい

Super 33+、No.35、Super 88の三種類あって、最高使用温度は同じ。最低使用頻度に差があるけど今回の用途ではどうでもよし。ちなみに剥がれてしまったトラスコのは、

  • 厚み(mm):0.2
  • 粘着力:1.4N/10mm
  • 引張強度:25N/10mm
  • 使用温度範囲:-5~80℃

だそうなので、粘着力でいえばノーマルでも倍の2.8N/10mmある。逆にNo.35だと2.2N/10mmだから差は縮まる。うーん、耐熱温度と粘着力のどっちを重視するべきだろう?

あとはコスパかな?てことでAmazonの相場を調べると、

Super 33+高いなっ!さすがスペック上位。これをAMSのためだけに買うのはどうなのって気が。No.35、Super 88も数十円で買える普通のビニールテープと比べたら桁が違う。ただしトラスコの75円は10m。スコッチの3つは20m。それでも数倍の単価差かぁ。

こんなのも発見。

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粘着力高めの3.0N/10mmで使用温度も-10~100℃。幅がちょっと狭くて12mm(他は19mm)、長さは5m。メートル単価としてはNo.35やSuper88より割高ですがご家庭用の少量版パッケージといったところでしょうか。スプール用としてみた時に、幅が19mmだと広すぎてフィラメントを通す穴を塞いでしまうのが気になっていたので、むしろ12mmは良いのかも。お試しでこれを買ってみようかなー。もしかするとホームセンター店頭で買えば安いかも?買ったら追記します。

2024.7.26追記

上記のEL-12が届きました。なんとSuper 33+の表記が。表のスペックと多少差異がある気もしますが、テープ幅の関係?

EL-12 = Super 33+でした

とりあえず貼り直ししてみました。思ったとおり、12mmと幅が短い分、エッジに貼ってもフィラメント留めの穴を塞がなくていい感じです。その分、接着面は少ないわけなので剥がれやすさについてはなんともですかね。

トラスコのがあまり剥がれていないスプールについては、応急処置的に端っこをこんな形で止めてみました。

まぁ剥がれる時は全体に剥がれてくるので気休め程度ですが、Super 33+は単価が高いので、こういう末端処理で間に合うならそれに越したことはないかなと。

と感覚ですがやはり密閉空間であるAMSにセットしていたスプールほど剥がれがひどい印象です。乾燥剤が入ってる分多少は湿度が低く保たれているはずですが、動作時含め温度は上がりやすいんでしょうかね。その辺の違いも含めて継続ウォッチしつつ、剥がれてこないかなどレポートしたいと思います。

Vブレーキ車にSesameサイクル2を付ける ~その2 Sesame Touch対応

先日、CandyHouse社の自転車用スマートロック「Sesameサイクル2」をPanasonic ハリアに取り付けようとしてハマりました。

ロックを取り付ける想定の場所にVブレーキというスポーツ車などに採用が多いブレーキ部品があり、説明書通りの取り付けができなかったのです。それを3Dプリンターで自作アダプタを作ってなんとかとりつけました。

しかし次に新発売の「SESAME タッチホルダー(自転車専用)」で指紋センサーのSesame Touchをとりつけて、指紋で自転車のロックを解錠できるようにしようとしたところ、なんとホルダーの想定している径よりもハリアのハンドルが太くてつけられませんでした。グリップ直ぐ脇ならついたかも知れませんが、すでにスマホホルダーやシフターがあり、空いた中心部に近づくにつれ段々太くなるハンドルだったため、空き位置には無理だった、という感じです。

タッチホルダーは写真のようにハンドルに巻き付ける台座と、Sesame Touch側の透明な裏蓋から成っています。ここの台座互換形状を自作アダプタ側につけてやることで、とりつけを実現しました(裏蓋が必要なため、タッチホルダーの購入は必須。ちなみにもう一台に蓋を流用した関係でネジが別途必要でM2x10がピッタリでした)。

Sesame Touchの自転車ホルダーの互換形状を追加

ハンドル部分に巻き付けるパーツを作るのが面倒そうだったのと、もともとナンバー錠をつけていて、鍵の位置に手を伸ばすのが自然な動作に感じられたので、自転車に乗る前にここを右手でタッチすればいいやと思った次第。

動作の様子は動画でご覧ください。

とりあえず在庫のPLA素材で造形しましたが、耐候、耐紫外線特性などを考えるとASAとかPC(ポリカーボネート)を使うべきかも知れません。経過観察しつつ、それらのフィラメントを入手することがあったら出し直してもいいかなと思っています。

Bambu Lab X1-Carbon、半月目

X1-Carbon使用半月(2週間)目の近況レビューです。

■高温プレート解禁。高温=騒音

別売りオプションの高温プレートを開封して使ってみました。Bambu Studioの設定にプリセットがあるので切り替えるだけで最適設定で造形してくれます。らくちん。

高温プレートの方が対応素材が多いので、裏表を使い分けないとならない低温/エンジニアリングプレートよりも簡単でいいなと思っていました。ただ、デフォルトでは文字通り高温で印刷するせいかファンの音が低温プレートの時よりもかなりうなる気がします。しかもPLA素材の場合は温かくなりすぎるのでドアを空けておくよう指示が出ます。キャリブレーションの一時的な騒音と違って、プリントしてる間ずっとうるさいのでちょっと微妙。高温プレートでもPLAの時は温度をそこまで上げない設定とかできそうなもんですが、少なくとも自動ではそういう挙動はないようです。

糊は低温、高温とも結局塗ってます。液体糊が塗りやすいし平滑になるのでいい感じ。Migda使ってたことは意地でも糊は塗りたくない、くらいに思ってたけど、こちらは最初に糊塗りを怠るとプレート破損するまで書かれているので、洗った直後も含めて結局塗るしかないかなと。前のプリント物があったところが白く抜けるので、そこだけ塗り足す感じでだいぶ習慣化して気にならなくはなってきました。テクスチャードプレート以外では塗ってく方針かなと。

また特に高温プレートだとそうなんですが、造形完了直後は造形物もプレートもかなり熱くて、しっかり冷ましてからはがさないとスプールなどの大きい造型物なんかは反ってしまいそう。なので、連続して次の造型にかかりたい時なんかは予備のプレートがあると、終わった造形物を冷ましながら次がスタートできていいかなと思い始めました。種類を使い分けるのではなく、単純に数があるとサイクルをまわしやすい、という気付きです。

ただ買い足すならスムーズPEIシートかな。「造形後に数分覚ましてから剥がさないと損傷する、定期的に洗剤と水でクリーニングが必要」という短所については、どのみち今も気に掛けてるので、だったら糊不要になるメリットしかないかなとか。造形時の温度(=騒音)が低いならいいな。でもこれ公式サイトで売り切れ中。入荷次第試して見たいと思います。

■スプール周りのあれこれ

購入後、未定着とかスパゲティとか3Dプリンターあるあるの失敗は皆無なんですが、唯一起きているのがAMSでのスプール絡みの問題、しかも社外スプールのフィラメントに関してです。純正スプール(フィラメント)を使っておけば問題ないんでしょうが、今までのフィラメント資産もせっかくなので使い切りたいところです。

AMSの仕組みとして、フィラメントを引き込むのは一度フィーダーユニットの穴に先端を差し込んであげれば問題なく引っ張ってくれます。ただ異なるフィラメントに切り替える際、できるだけ無駄が発生しないようにエクストルーダーまで到達したフィラメント先端を巻き戻す動作が発生します。こちらはフィーダーユニットが逆向きに送り出すと同時に、スプールをローラーで逆回転させて巻き取っていくという2つの要素が同時に動く仕組み。後者の巻き取りで、ローラーの回転がきちんとスプールに伝わってくれないと、戻ったフィラメントが巻き取られず暴れて絡んだり、いつまでも巻き取りが完了しないのでエラーになって造形が中断したりします。ここら辺が非純正スプールだと正しく回転せずにトラブルになりがち。

こうした社外スプールのフィラメントは外部ホルダーから供給すれば問題なく使えるのですが、多色造形の1つとして使いたい時はAMSに入れる必要がある為、なにかしら工夫がいります。

紙製スプール

OVERTUREやeSUNなど純正より安くて評価も高いフィラメントメーカーは樹脂製にかわって段ボール製スプールを採用しています。コスト面、環境面で優位なようです。普通のホルダーにひっかけて使うプリンターならなんの問題もないのですが、AMSだと摩擦が足りなくて正しく回転してくれません。

これを解決する方法として、

  • 樹脂製スプールにつけかえる
  • 外周に樹脂製リングを取り付ける

などが一般的。どちらもモデルデータがあるので自分でプリントすれば良いのですが、とりあえず少ないフィラメントで作れる後者を試したところ、それでも滑って正しく巻き取れないケースが頻発。もしかするとPLAよりもPETGの方がザラつきがあって向いてるのかも?もしくは「ファジー壁面」をオンにして表面をザラザラにするとか。今はこのギザ十みたいな凹凸がついたリングアダプタを試しています。

小さいスプール

フィラメントは1kgスプールが一般的ですが、ちょっとだけこの色がほしい、といった時に500gのものだと安く済みます(コスパ的には割高でも)。こうした外径が小さく重量も軽いスプールもまたAMSと相性が悪いようです。このようなリングアダプタで外径を大きくしてやることで対応可能です。ただうちでもってた500gスプールは横幅も短いためこれでは充分に締め付けできませんでした。とりあえずセロテープでアダプタが空回りしないように固定してしのいでいますw

これらを使用する時は対応サイズをよく確認することをお勧めします。

残量が少なく軽くなったスプール

純正スプールでも起きうるかもなんですが、フィラメントの残量が残り少なくなってくると、重量も減るためにローラーとの摩擦も小さくなって上手く回転しないこともあるようです。中心の空洞部分に重りを入れるのが手っ取り早く、そうした目的のモデルもありますが、Facebookグループなどに「このフィラメントにはこのメーカーの缶詰がピッタリだぜ」みたいな情報も飛び交っていたり。自分は手近にある液体糊をつっこんだりしてますが、追々日本で入手可能な缶詰など代用物を模索してみたいと思います。

いずれのパターンでもAMS内のローラーと外周部分の摩擦が足りないのが問題になるので、

  • ザラザラした表面にする
  • 重くする
  • リングとスプールが空回りしないようしっかり固定する

などの観点で工夫をしてやるのが有効そうです。

そもそも純正スプール/フィラメントならトラブルが少ないので、そういったものを使えばいいんですが、やはり値段差もあるので悩ましいです。ただ公式でもPLAベーシックなどのメジャーなフィラメントはスプール無しのものも購入できて、4,180円->3,580円と少しお安くなります。純正スプールにはNFCタグが仕込まれていて、AMSにセットするだけで素材や色を自動識別してくれる便利さもあるので、よく使うものは純正スプールで買い揃えていき、以降はスプール無しで補充したり、割安な社外紙スプール製品を買ってつけかえていく運用がいいかなーと思っています。

結局X1のタッチパネルは使ってるのか?

P1シリーズとX1の大きな違いとしてタッチパネル操作部の有無があります。PCやスマホアプリからもモデルデータを送り込んで印刷開始できるので、ぶっちゃけいらないんじゃないか?と思って購入時にかなり迷いました。

使い比べたわけではないですが、ありゃあったで便利だなと感じています。造形物出力中に次のモデルデータを送信しておいたり、同じものを複数回造形したい時など、本体前でプレートの糊を塗る作業などをして、そのままタッチパネルで次のデータを選んで開始できるとスムーズです。その際にグラフィックでモデルを識別できるとストレスがありません。その時の識別も楽だし、保存時にわかりやすい名前をつける、といった配慮からも解放されます。

保証もなくなるのでまだ導入する勇気はないですが、最近はカスタムファームウェアなども出ていて機能追加などもされているようです。

LiDARなど他のX1優位点が必要ない場合、P1Sを買ってこちらの外部GUIユニットを追加するのも手かもと書いたんですが、こちらの画面サンプルをよくみていてもモデルのプレビューはなくリスト形式っぽいですね。もしかしたらできるかも知れないし、将来実装されるかも知れませんが、現時点ではX1の優位性の1つかも知れません。

■まとめ

現時点では社外スプール周りのトラブルがある位で、全体的には非常に安定して高品質な造形が手軽にできる良モデルだと思います。その分、お高いので神モデルとまでは言わないですが、予算に余裕があれば自身をもってお勧めできる製品だと思います。

あとはAmazonの公式ストアでもう少し取り扱いラインナップが増えたらなぁ。純正フィラメントやプレート、ノズルが急ぎですぐほしい!Prime配送で送料無料で買いたい、ってニーズに応えられるといつでもなんでも出力できてエコシステムとしての完成度も上がるかなと。