AMSで紙スプール使うにはもうビニールテープでいいんじゃないか?

3Dプリンターのフィラメントはスプールと呼ばれるリールに巻き付けて売られています。このスプールが元はプラ製だったのが最近一部メーカーは段ボール的な紙で提供しています。OVERTUREとかeSUNといった大手も基本紙のようです。

これがBambu Lab X1-Carbonのフィラメントフィーダーシステム、AMSと相性が悪いです。

  • 摩擦の関係でローラーが滑って正常に送り/戻しができない
  • 紙が削れて粉塵となりギアなどに噛んで故障の原因となる

などと言われています。(と思っていました)。

そこで、写真のようなフレーム部品(緑色)を3Dプリンター自身で造形してとりつけるのが一般的です。

しかしこれがやってみるとなかなか上手く機能しませんでした。むしろ滑ってしまって巻き取りができず出力が止まりまくりです。ツルツルのPLAがダメなんかとPETG素材で出してみたり、外周がギザギザしたデザインのものを使ってみたりするもどれもイマイチ。「もう二度と紙スプールのフィラメントなんか買うもんかウワーン」と思いながらなんとかあるだけ使い切ろうと頑張ってきました。

しかしようやく写真の2スプールとも残りあとわずかというところで、なかばキレつつフレーム無しで使ってみたところ、ウソみたいにばっちり回転してくれるじゃないですか。「紙だと滑ってダメ」というのは都市伝説か自分の記憶違いで、普通に使えます。冷静に考えてみれば見るからに樹脂より摩擦高いよねと。

しかし、「紙が削れた粉塵が機械に悪い」というリスクは以前と残るのでそのまま使うわけにもいかず。あらためて海外掲示板なども含めてググってみると「electrical tape巻いときゃOKよ」という記述が。絶縁用のビニールテープのことですよね。

確かに摩擦だけでいうとパーマセルテープみたいなのがヨサゲですがこれも結局紙なので削れてしまいそう。早速手近にあったビニールテープを巻いてみました。

もうね、いままで散々苦労した紙スプールのフィラメントが魔法のように正常に使えちゃいましたよ。今までの苦労はなんだったのかと。多色出力すると層毎に何度も引き戻しして、その度にエラーになってで、つきっきりで手動巻き取りしないとだったのがウソのよう。これまでの造形トラブルはほぼすべて社外フィラメント(というかスプール)に起因するもの(紙スプール、小径スプールなど)だったので、「今度は(高いけど)Bambu Lab純正フィラメントでやってくぜ。少なくとも主要素材・カラーは純正NFCチップ入りスプール付きを揃えて、フィラメントを入れかえて使うぜ」と心に誓ってましたが、紙スプールでもこんな簡単なハックで普通に使えるならフィラメントの質としては問題なくコスパも良いOVERTUREやeSUNを使っていってもいいかなーとか。

2024.7.26追記

夏になって室温が上がったら貼ったビニールテープがデロデロに剥がれてきました。粘着剤が緩くなってビニール素材の真っ直ぐに戻ろうとする力が勝ってしまったという感じ。うーむ、粘着力の強さ自慢のビニールテープとかあんのかしら?とPerplexityさんに聞いてみたところ、スコッチの電気絶縁用ビニールテープの「プレミアム」というのが出てきた。調べると、一般品が80℃に対しプレミアムは110℃までの耐熱性があるらしい

Super 33+、No.35、Super 88の三種類あって、最高使用温度は同じ。最低使用頻度に差があるけど今回の用途ではどうでもよし。ちなみに剥がれてしまったトラスコのは、

  • 厚み(mm):0.2
  • 粘着力:1.4N/10mm
  • 引張強度:25N/10mm
  • 使用温度範囲:-5~80℃

だそうなので、粘着力でいえばノーマルでも倍の2.8N/10mmある。逆にNo.35だと2.2N/10mmだから差は縮まる。うーん、耐熱温度と粘着力のどっちを重視するべきだろう?

あとはコスパかな?てことでAmazonの相場を調べると、

Super 33+高いなっ!さすがスペック上位。これをAMSのためだけに買うのはどうなのって気が。No.35、Super 88も数十円で買える普通のビニールテープと比べたら桁が違う。ただしトラスコの75円は10m。スコッチの3つは20m。それでも数倍の単価差かぁ。

こんなのも発見。

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粘着力高めの3.0N/10mmで使用温度も-10~100℃。幅がちょっと狭くて12mm(他は19mm)、長さは5m。メートル単価としてはNo.35やSuper88より割高ですがご家庭用の少量版パッケージといったところでしょうか。スプール用としてみた時に、幅が19mmだと広すぎてフィラメントを通す穴を塞いでしまうのが気になっていたので、むしろ12mmは良いのかも。お試しでこれを買ってみようかなー。もしかするとホームセンター店頭で買えば安いかも?買ったら追記します。

2024.7.26追記

上記のEL-12が届きました。なんとSuper 33+の表記が。表のスペックと多少差異がある気もしますが、テープ幅の関係?

EL-12 = Super 33+でした

とりあえず貼り直ししてみました。思ったとおり、12mmと幅が短い分、エッジに貼ってもフィラメント留めの穴を塞がなくていい感じです。その分、接着面は少ないわけなので剥がれやすさについてはなんともですかね。

トラスコのがあまり剥がれていないスプールについては、応急処置的に端っこをこんな形で止めてみました。

まぁ剥がれる時は全体に剥がれてくるので気休め程度ですが、Super 33+は単価が高いので、こういう末端処理で間に合うならそれに越したことはないかなと。

と感覚ですがやはり密閉空間であるAMSにセットしていたスプールほど剥がれがひどい印象です。乾燥剤が入ってる分多少は湿度が低く保たれているはずですが、動作時含め温度は上がりやすいんでしょうかね。その辺の違いも含めて継続ウォッチしつつ、剥がれてこないかなどレポートしたいと思います。

Vブレーキ車にSesameサイクル2を付ける ~その2 Sesame Touch対応

先日、CandyHouse社の自転車用スマートロック「Sesameサイクル2」をPanasonic ハリアに取り付けようとしてハマりました。

ロックを取り付ける想定の場所にVブレーキというスポーツ車などに採用が多いブレーキ部品があり、説明書通りの取り付けができなかったのです。それを3Dプリンターで自作アダプタを作ってなんとかとりつけました。

しかし次に新発売の「SESAME タッチホルダー(自転車専用)」で指紋センサーのSesame Touchをとりつけて、指紋で自転車のロックを解錠できるようにしようとしたところ、なんとホルダーの想定している径よりもハリアのハンドルが太くてつけられませんでした。グリップ直ぐ脇ならついたかも知れませんが、すでにスマホホルダーやシフターがあり、空いた中心部に近づくにつれ段々太くなるハンドルだったため、空き位置には無理だった、という感じです。

タッチホルダーは写真のようにハンドルに巻き付ける台座と、Sesame Touch側の透明な裏蓋から成っています。ここの台座互換形状を自作アダプタ側につけてやることで、とりつけを実現しました(裏蓋が必要なため、タッチホルダーの購入は必須。ちなみにもう一台に蓋を流用した関係でネジが別途必要でM2x10がピッタリでした)。

Sesame Touchの自転車ホルダーの互換形状を追加

ハンドル部分に巻き付けるパーツを作るのが面倒そうだったのと、もともとナンバー錠をつけていて、鍵の位置に手を伸ばすのが自然な動作に感じられたので、自転車に乗る前にここを右手でタッチすればいいやと思った次第。

動作の様子は動画でご覧ください。

とりあえず在庫のPLA素材で造形しましたが、耐候、耐紫外線特性などを考えるとASAとかPC(ポリカーボネート)を使うべきかも知れません。経過観察しつつ、それらのフィラメントを入手することがあったら出し直してもいいかなと思っています。

Bambu Lab X1-Carbon、半月目

X1-Carbon使用半月(2週間)目の近況レビューです。

■高温プレート解禁。高温=騒音

別売りオプションの高温プレートを開封して使ってみました。Bambu Studioの設定にプリセットがあるので切り替えるだけで最適設定で造形してくれます。らくちん。

高温プレートの方が対応素材が多いので、裏表を使い分けないとならない低温/エンジニアリングプレートよりも簡単でいいなと思っていました。ただ、デフォルトでは文字通り高温で印刷するせいかファンの音が低温プレートの時よりもかなりうなる気がします。しかもPLA素材の場合は温かくなりすぎるのでドアを空けておくよう指示が出ます。キャリブレーションの一時的な騒音と違って、プリントしてる間ずっとうるさいのでちょっと微妙。高温プレートでもPLAの時は温度をそこまで上げない設定とかできそうなもんですが、少なくとも自動ではそういう挙動はないようです。

糊は低温、高温とも結局塗ってます。液体糊が塗りやすいし平滑になるのでいい感じ。Migda使ってたことは意地でも糊は塗りたくない、くらいに思ってたけど、こちらは最初に糊塗りを怠るとプレート破損するまで書かれているので、洗った直後も含めて結局塗るしかないかなと。前のプリント物があったところが白く抜けるので、そこだけ塗り足す感じでだいぶ習慣化して気にならなくはなってきました。テクスチャードプレート以外では塗ってく方針かなと。

また特に高温プレートだとそうなんですが、造形完了直後は造形物もプレートもかなり熱くて、しっかり冷ましてからはがさないとスプールなどの大きい造型物なんかは反ってしまいそう。なので、連続して次の造型にかかりたい時なんかは予備のプレートがあると、終わった造形物を冷ましながら次がスタートできていいかなと思い始めました。種類を使い分けるのではなく、単純に数があるとサイクルをまわしやすい、という気付きです。

ただ買い足すならスムーズPEIシートかな。「造形後に数分覚ましてから剥がさないと損傷する、定期的に洗剤と水でクリーニングが必要」という短所については、どのみち今も気に掛けてるので、だったら糊不要になるメリットしかないかなとか。造形時の温度(=騒音)が低いならいいな。でもこれ公式サイトで売り切れ中。入荷次第試して見たいと思います。

■スプール周りのあれこれ

購入後、未定着とかスパゲティとか3Dプリンターあるあるの失敗は皆無なんですが、唯一起きているのがAMSでのスプール絡みの問題、しかも社外スプールのフィラメントに関してです。純正スプール(フィラメント)を使っておけば問題ないんでしょうが、今までのフィラメント資産もせっかくなので使い切りたいところです。

AMSの仕組みとして、フィラメントを引き込むのは一度フィーダーユニットの穴に先端を差し込んであげれば問題なく引っ張ってくれます。ただ異なるフィラメントに切り替える際、できるだけ無駄が発生しないようにエクストルーダーまで到達したフィラメント先端を巻き戻す動作が発生します。こちらはフィーダーユニットが逆向きに送り出すと同時に、スプールをローラーで逆回転させて巻き取っていくという2つの要素が同時に動く仕組み。後者の巻き取りで、ローラーの回転がきちんとスプールに伝わってくれないと、戻ったフィラメントが巻き取られず暴れて絡んだり、いつまでも巻き取りが完了しないのでエラーになって造形が中断したりします。ここら辺が非純正スプールだと正しく回転せずにトラブルになりがち。

こうした社外スプールのフィラメントは外部ホルダーから供給すれば問題なく使えるのですが、多色造形の1つとして使いたい時はAMSに入れる必要がある為、なにかしら工夫がいります。

紙製スプール

OVERTUREやeSUNなど純正より安くて評価も高いフィラメントメーカーは樹脂製にかわって段ボール製スプールを採用しています。コスト面、環境面で優位なようです。普通のホルダーにひっかけて使うプリンターならなんの問題もないのですが、AMSだと摩擦が足りなくて正しく回転してくれません。

これを解決する方法として、

  • 樹脂製スプールにつけかえる
  • 外周に樹脂製リングを取り付ける

などが一般的。どちらもモデルデータがあるので自分でプリントすれば良いのですが、とりあえず少ないフィラメントで作れる後者を試したところ、それでも滑って正しく巻き取れないケースが頻発。もしかするとPLAよりもPETGの方がザラつきがあって向いてるのかも?もしくは「ファジー壁面」をオンにして表面をザラザラにするとか。今はこのギザ十みたいな凹凸がついたリングアダプタを試しています。

小さいスプール

フィラメントは1kgスプールが一般的ですが、ちょっとだけこの色がほしい、といった時に500gのものだと安く済みます(コスパ的には割高でも)。こうした外径が小さく重量も軽いスプールもまたAMSと相性が悪いようです。このようなリングアダプタで外径を大きくしてやることで対応可能です。ただうちでもってた500gスプールは横幅も短いためこれでは充分に締め付けできませんでした。とりあえずセロテープでアダプタが空回りしないように固定してしのいでいますw

これらを使用する時は対応サイズをよく確認することをお勧めします。

残量が少なく軽くなったスプール

純正スプールでも起きうるかもなんですが、フィラメントの残量が残り少なくなってくると、重量も減るためにローラーとの摩擦も小さくなって上手く回転しないこともあるようです。中心の空洞部分に重りを入れるのが手っ取り早く、そうした目的のモデルもありますが、Facebookグループなどに「このフィラメントにはこのメーカーの缶詰がピッタリだぜ」みたいな情報も飛び交っていたり。自分は手近にある液体糊をつっこんだりしてますが、追々日本で入手可能な缶詰など代用物を模索してみたいと思います。

いずれのパターンでもAMS内のローラーと外周部分の摩擦が足りないのが問題になるので、

  • ザラザラした表面にする
  • 重くする
  • リングとスプールが空回りしないようしっかり固定する

などの観点で工夫をしてやるのが有効そうです。

そもそも純正スプール/フィラメントならトラブルが少ないので、そういったものを使えばいいんですが、やはり値段差もあるので悩ましいです。ただ公式でもPLAベーシックなどのメジャーなフィラメントはスプール無しのものも購入できて、4,180円->3,580円と少しお安くなります。純正スプールにはNFCタグが仕込まれていて、AMSにセットするだけで素材や色を自動識別してくれる便利さもあるので、よく使うものは純正スプールで買い揃えていき、以降はスプール無しで補充したり、割安な社外紙スプール製品を買ってつけかえていく運用がいいかなーと思っています。

結局X1のタッチパネルは使ってるのか?

P1シリーズとX1の大きな違いとしてタッチパネル操作部の有無があります。PCやスマホアプリからもモデルデータを送り込んで印刷開始できるので、ぶっちゃけいらないんじゃないか?と思って購入時にかなり迷いました。

使い比べたわけではないですが、ありゃあったで便利だなと感じています。造形物出力中に次のモデルデータを送信しておいたり、同じものを複数回造形したい時など、本体前でプレートの糊を塗る作業などをして、そのままタッチパネルで次のデータを選んで開始できるとスムーズです。その際にグラフィックでモデルを識別できるとストレスがありません。その時の識別も楽だし、保存時にわかりやすい名前をつける、といった配慮からも解放されます。

保証もなくなるのでまだ導入する勇気はないですが、最近はカスタムファームウェアなども出ていて機能追加などもされているようです。

LiDARなど他のX1優位点が必要ない場合、P1Sを買ってこちらの外部GUIユニットを追加するのも手かもと書いたんですが、こちらの画面サンプルをよくみていてもモデルのプレビューはなくリスト形式っぽいですね。もしかしたらできるかも知れないし、将来実装されるかも知れませんが、現時点ではX1の優位性の1つかも知れません。

■まとめ

現時点では社外スプール周りのトラブルがある位で、全体的には非常に安定して高品質な造形が手軽にできる良モデルだと思います。その分、お高いので神モデルとまでは言わないですが、予算に余裕があれば自身をもってお勧めできる製品だと思います。

あとはAmazonの公式ストアでもう少し取り扱いラインナップが増えたらなぁ。純正フィラメントやプレート、ノズルが急ぎですぐほしい!Prime配送で送料無料で買いたい、ってニーズに応えられるといつでもなんでも出力できてエコシステムとしての完成度も上がるかなと。

3Dプリンターフィラメントの保管湿度目標

3Dプリンターの素材であるフィラメントは湿度に弱く、高湿環境に長時間おくと水分を吸って造形品質や強度が落ちると言われています。ドライボックスに入れて保管したり、使用前にフィラメントドライヤーで熱して水分を飛ばしたりといった苦労もあります。

先の記事で書いたようにAMS内に湿度計を入れてみたので、具体的に何%程度を保持するか目標値を検討してみました。

チャットAIのClaude4さんに尋ねたところ、以下のような回答が返ってきました(ちなみにChatGPT4にしたCopilotさんは一般論ばかりで具体的な数値は答えてくれませんでした)。

3Dプリンターのフィラメントを適切に保管するためには、湿度管理が重要です。

一般的に、フィラメントの種類によって最適な保管湿度は異なりますが、以下のようなおおよその目安があります。

PLA(ポリ乳酸):20%~50%

PETG: 20%~40%

ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン):25%~50%

ナイロン:20%~50%

低湿度過ぎると、フィラメントが乾燥し過ぎて脆くなり、高湿度過ぎるとフィラメントが湿気を帯びて品質が低下します。

できれば40%前後の湿度を保つのが理想的です。また、遮光された密閉容器に入れて保管することで、湿度変化の影響を最小限に抑えることができます。一部のメーカーでは、乾燥剤付きの専用保管ケースを販売していますので、フィラメントの種類に合わせて活用するのがよいでしょう。

定期的にフィラメントの状態を確認し、湿度が高くなりすぎた場合は乾燥する必要があります。適切な保管により、フィラメントの品質を長期間維持することができます。

cloude.ai

素材によっても違いますが、40%とは思ったより全然高い値でした。現在は付属の乾燥剤のみで22%を指しています。(本当は同じ湿度計で比べるべきでしょうが)SHARPの空気清浄機の表示で30%の環境下です。AMS内で20%台を保ててれば充分そうですね。まぁこれが夏場になったり、冬に加湿機をつけたりするともう少し維持が大変かもですが。

3Dプリンターを活用しだすと、あの色も使いたい、この素材も試したいとフィラメントが積み上がっていきがちですが、(保管場所の問題は別にして)日本の気候でもそこまで神経質にならなくてもいいのかも知れません。

2024.8.12追記:

湿度に弱いTPUフィラメントを乾燥有り/無しで比べて見たら思いのほか差が出ました。

男の子の好きなヤツ!インサートナットの熱圧入をやってみた

3Dプリンターで樹脂部品を作って、なにかにネジ止めする際、樹脂素材に直接ネジ穴を切ってもちょっと強度に不安があります。ちょっとネジを締めすぎるだけで壊れてしまうんじゃないかと。またネジ山の精度も本当に工業製品の雄ネジとがっちり噛み合う精度で造形できるの?と。

そんな時に活躍するのがインサートナットという部品です。つまり金属できっちり作られたネジ穴(雌ネジ)部分を後から埋め込むという手法です。実際の部品はこんなものです。

M5 8mmのインサートナット

外側がギザギザしていて素材にガッチリ食い込むようになっています。

これの挿入方法はいくつかあるようですが、3Dプリンター素材の場合、熱圧入というのが一般的なようです。文字通り熱で炙ってグイっと押し込む!という方法。そうすると樹脂素材がじわっと溶けていい感じに固定されると。

具体的にはライターで炙って押し込むとか、ハンダごてのコテ先につけて、とかあるらしいですが、例によって道具から揃えるのが好きなので、専用のコテ先セットを買ってみました。

先端がMサイズの太さをした円柱形状で通常の尖ったコテ先よりもしっかりはまり、真っ直ぐに押し込みやすいです。今回使ったM5ナット用の先端を装着したのがこちら。

PLA素材が200℃前後で造形する素材ですがもうちょい高めの300℃くらいのハンダごて設定でやりました。数秒でじわっと溶けて沈み込んでいくので、深く入れすぎないよう注意します。やはりツライチになってると綺麗。

使用したナットの仕様がM5x8x7となっていて、おそらくネジ穴径がM5、全長が8mm、外径が7mmという意味なので、3Dプリント部品側には外径と同じ7mmの穴をあけておきました。冷えた状態だとまったくはまらない直径ですが、そこを熱でズブズブと入れるので結果としては余計な隙間もできずいいのかなと。

実際に使ってみたのがこちら。

これがなんの治具かは別記事にて

謎の満足感があります。単なるDIY部品が急に工業製品になったかのような。

更に念のためにネジの緩み止めを買って塗っておきました。

こうしてしっかりしたネジ穴が付けられるなら、単体部品ではなく色々なものに固定して使うようなものや、微妙な調整幅をもたせたいもの、力のかかる箇所は金属部品で作りたいもの、など応用の幅がめちゃくちゃ広がりそうです。

そしてネジといえば撮影、録音機材で一般的な三脚穴サイズ(1/4-20UNC)!これが使えるならカメラマウントとかリグになにかを取り付ける系の治具を作れます。こちらは日本のAmazonでは手頃なものが見付からず、AliExpressで購入しました(アリエクはたまにリンク先の商品が差し替わっているので、サイズは確認した上でご購入ください)。60個も使い切れないけど、ともあれなにかそっち系のアイデアができたら活用しようかと。

2024.03.23追記

上記部品のサイズが微妙にあわなくて作り直すことにしました。その際、このインサートナットは再利用できるのかという疑問が頭をかすめます。今回は専用半田ごてヘッドの取り付けねじがM5サイズだたので、ヘッドを外した状態でそのままナットに取り付けることができました。その形で300℃に熱して引き抜けばぬちょーっと引き抜けました。ただ多少フィラメントの溶けカスが残るので、同じ色のフィラメント部品に再挿入するならいいですが、違う色となると場合によっては綺麗には再使用できにくいかも知れません。丁寧にこそぎ落とせばいいんですが。そしてM5以外のナットの場合は、別の方法、例えば適当な雄ネジをつないでそれを熱してペンチで引き抜く、などの方法が考えられます。

計算上の単価はさほど高くないですが、例えば今回買った330個入りセットに同サイズは10個しか含まれてないので、ちょっと使い捨てるには惜しいですね。

2024.03.27追記

ネジをきつく締めすぎたか、少しナットが浮いてくるというか抜けてくることがありました。なるべく強度を上げるためにはウォールを厚くしたりした方がようさそう。あとはフランジのついたネジで圧入した面に密着するような形で締め付けるのも重要かなと思いました。

2024.04.07追記

部品を交換する機会があったので上記の状態を写真で撮ってみました。

手で抜けるところまではいってなかったですが半分ほど抜けてしまっていました。ナット自体の再利用がよくなかったのか、PLAという素材がダメか、はたまた自分の腕が悪いのか。ピタっとツライチになったらすぐに小手を抜いてますが、もう少し長く保持して熱でPLAがしっかり溶けて馴染むのを待った方がいいとかあるのかも?

交換後のパーツは外壁を6層で再施工(上記写真のは設定覚えてない)。またしばらく様子をみようと思います。いずれにせよ屋外で使うものなので次の機会にはPLAではなくASAとかPC(ポリカーボネート)フィラメントを使ってみたいところです。

2024.5.2追記

2つ目もやっぱりナットが抜けてきてしまいました。PETGのいい色のフィラメントが在庫になかったので、とりあえずPLA-CF(カーボンファイバーを練り込んだPLA)で3つ目を作成。今度は熱圧入後にしばらく半田ごてを保持し、じっくり熱を伝えるようにしてみました。それで樹脂がしっかり溶けて馴染んで(掴んで)くれないかなと。

違いはPLA→PETG-CFに素材を変更したことと、しっかり熱を馴染ませた点。あと形状のアップデートとして全体の傾斜を微妙に調整。

これでだめならインサートナットは諦めて、通常の6角ナットを内部に埋め込む(穴ができたところで造形を一時停止し、ナットをはめてからフタをするように続きを造形する)方法を試してみようかなと思います。耐候性、耐紫外線などでASAがよさそうかなと思ってますが、ちょっと使い切れずもったいないことになりそうなので悩ましい。

2024.5.4追記

上記のPETG版、使用開始初日でロック中にタイヤが回ってスポークがガチンと当たっただけでインサート部分が根本からモゲましたorz。層はがれです。ということで造形の向きを90度変えてみたらやはりオーバーハングがきれいにでず。しかたないのでサイクル2を保持するブロックを別部品化してはめこむ形にアップデート。ベースをちょうど届いたPLA-CFで、受けブロックをPETG-CFで90度回転していいとこどりをする形に。さてこれでうまくいくか、、

だめなら

  • 六角ナットを埋め込む
  • ASAフィラメントを買って使う
  • 水溶性サポートを買って90度回転してもきれいに造形できるようにする

のどれかかなぁ。

■まとめ

3Dプリント造形物にガッチリしたネジ穴を設置するインサートナットと埋め込み用のコテ先を試しました。簡単でなおかつ埋め込み作業が気持ち良いw。3Dプリント造形物の活用の幅が広がるので活用していきたいです。